うつ病という診断で抗うつ薬等を処方され、数か月後に双極性障害に診断が変わるケースが多いです。

 上の図は、ある方の体験談を参考に、気分の変化を折れ線グラフで表してみました。

 一応、ゼロを平常心として、+と-で気分の上下を表現しています。数値はその人の感じたものです。

 単純化は免れませんが、時系列的に文章で書かれたものを、こうしてグラフで表現してみると、投薬と気分の変化に因果関係があることがわかると思います。

 

 この人の場合、受診のきっかけは、過重労働による不眠でしたが、医師は「うつ病」と診断しました。

 Aの処方は、SSRI(抗うつ薬)とベンゾ系の抗不安薬と睡眠薬(それぞれ1錠ずつ)でしたが、次の診察で抗うつ薬と抗不安薬が2錠に増加となりました。

 さらに1か月後には抗うつ薬が追加され、しばらくすると、睡眠薬も追加となりました。

 この頃から「気分は絶好調」です。よく眠れ、疲れを知らず、意欲も十分。

 当人は治療の効果を実感したため、欠かさず受診し、服薬も医師の指示通りきちんと守ったといいます。

 

 しかし、浪費行動が始まります。大型テレビや腕時計などで、数百万円使ってしまい、家族は注意しますが、当人は有頂天のまま、一向意に介するふうもなし。

 そして、主治医は患者の浪費を見て、診断を「うつ病」から「双極性障害」へと変えました。

 しかし、処方は、双極性障害の薬、気分安定薬が出ることはなく、相変わらずB  抗うつ薬(2種類)と抗不安薬、睡眠薬(2種類)です。

  当然、気分は高揚したままですが、そのせいかどうか、医師は、抗うつ薬と抗不安薬を一気に切りました。

 1か月ほどして、「ガクンと音がしたように感じるくらい、気分が落ち込む」結果となりました。

 当然です。

 が、医師は薬の影響(離脱症状)を考慮することなく、「山が高かったら、谷も深い」などと言い、双極性障害の波の幅が大きいというふうにしか考えません。

 薬によって上がった気分は、いつかは下がります。下がるきっかけは、今回のように、多くは医師による減・断薬、あるいは診断が変わることによる変薬です。

 そして、一度落ちた気分を再び「浮上」させるのは、至難の業。

 受診前の気分がマイナス5くらいだとしたら、この時点でマイナス20くらい(それ以上)にまで落ちています。

 結局医師は、処方をC 抗うつ薬2種類、抗不安薬、睡眠薬2種類に戻しますが、気分が上がってくることはありませんでした。

 

 そこで主治医に見切りをつけ、転院して減・断薬に取り組みました。しかし、ここでも精神医療の壁にぶち当たります。

 減薬のスピードが速すぎるのです。結果、さらなる離脱症状を抱えることになりますが、これもよくあるパターンです。減薬について知識のある医師はとても少ないのが現実です。医師は「薬の影響は1か月で消える」と考え、患者のつらさを理解しようとしません。

 それでも3か月後にはなんとか断薬に至りました。が、その後も体調不良は続き、死にたい死にたい衝動で、何度も自殺未遂をしています。

 ようやく少し動けるようになるまでには、それから1年ほどの月日を要しました。

 

 この方の場合、抗うつ薬は確かに効果があったかもしれません。しかし、薬によって気分が「上がる」ことを「うつ病の治療」と言っていいのかどうかは疑問です。

 人工的に気分を操作することの怖さは、それを続けることで、今度は誰にも制御できない状態を作り出してしまうことです。

 薬で躁転させておいて、それを双極性障害と診断しなおし、リチウムや抗精神病薬等を処方する。今回の例では、それがなかっただけまだ「まし」といえるのでしょうか。いや、双極性障害と自ら診断しておきながら、抗うつ薬を2種類も出し続けること自体、双極性障害のことをどれほど理解しているのか疑問です。

 医師は、グラフで表現したような、患者の気分の浮き沈みを、どう考えるのでしょうか。薬を飲むまでは、このような極端な動きはなかったのに、服薬によって現れた気分の上下を、それでもまだ「あなたの症状」ととらえるのでしょうか。

 おそらく受診前のマイナス5くらいの状況なら、環境調整で解決したと思われます。

 抗うつ薬によって気分が上がって「絶好調」。医師はそこだけを見て、それで良しとしているのかもしれません。それ以降に現れてくる不都合な状態には目をつぶって……。