前エントリ、「711」について多くのご意見、ありがとうございました。

 その中で、ぜひ実施したいという方がおり、現在開催の方向で動き出しているようです。詳細についてはまたお知らせします。

 

 

 今日は子どもと精神医療について考えてみたいと思います。

 とくに現在急増している「発達障害」について。

 以前もお伝えしましたが、厚生労働省の患者調査によると2014年から、精神疾患とされる子どもたち(20歳未満)が急増しています。2011年には患者数179000人だったものが、2014年には27万人。内訳を見ると「その他の精神、行動の障害」(つまり発達障害)の急増が目立ちます。

一方、発達障害の一つADHDの治療薬とされるストラテラ(イーライリリー)の売上は2011年に23億円だったものが、2014年には139億円と急伸(2017年にはなんと270億円)。

この背後にはどんな問題が隠されているか、この対比した数字を見れば、おおよその見当はつくというものです。

さらに、発達障害が増加している原因には、社会的な要因も大いにあります。ちょっとした違いを「発達障害」ととらえて医療につなげようという動きや、「発達障害は疾患である」という認識があまりに安易に受け入れられている現実も、増加の後押しをしているでしょう。

何でもかんでも発達障害。

それ用の薬もいまではたくさん用意されています。

ADHD用の薬としては、コンサータ、ストラテラ、インチュニブ、ビバンセ。

さらに自閉スペクトラム症の易刺激性に対しては、抗精神病薬のリスパダールとエビリファイが新たに適応拡大されました。

 

一方で、「発達障害」と言われる症状を持つ子どもは確かに存在しており、その数が「急増」かどうか定かではありませんが、増えている印象はあります。

 ただ、「発達障害」というものが、とくに「自閉スペクトラム症」と言われるものが、実際、どのような状態を指すのか、案外わかっていない「専門家」は多いのではないでしょうか。

したがって、「発達障害の過剰診断」ということと相容れない状況――「発達障害の見落とし」も意外に多いような気がします(発達障害という言い方には異論が出てくると思いますので、ここでは「感覚過敏性」と言ってもいいかもしれません)。

 そして、感覚過敏性という特性を見落とした結果の「誤診」です。

 じつは子どもの精神医療で、大きな(重い)被害を出しているのは、この点だと、ずっとこの問題を考えてきて、私は感じています。

 感覚過敏からくるさまざまな症状を統合失調症と診断し、薬物治療を行い、効果がでないために多剤大量処方となり(大学病院など大病院では信じられないような大量投与も普通に目にします)、やがて「難治性統合失調症」。行き付く先は「電気ショック」あるいは「クロザピン」の投与です。

 それでも改善しない(当たり前です。統合失調症ではないのだから)となると、あとは病院から「厄介払い」されてしまう。

 この被害は対象が子どもということもあり、被害は長期にわたり、人生を台無しにし、さらに家族を巻き込み、じつに筆舌に尽くしがたい結果を招きます。

 この問題は最初に書いた本『ルポ 精神医療につながれる子どもたち』に詳述しましたが、なかなか理解されにくいようです。統合失調症と発達障害の関連について、知っている精神科医がいかに少ないか、この本の感想を数人の精神科医から聞かされて、実感しました。(私の書いたことが、まるで別世界の話ででもあるかのように驚いた精神科医がいましたが、それが現在の精神医療の現実なのでしょう)。

 

 そうした中で、最近見つけた本です。

『活かそう! 発達障害脳』長沼睦雄(花風社)。

 長沼医師は北海道で十勝むつみのクリニックを開いています。

長沼医師は本の中で「発達障がいが診られない医師」として、以下のことを挙げています(一部抜粋)。

・発達障害の被害的認知を知らない医師

・発達障害の薬剤過敏性を知らない医師

・発達障害の感覚過敏性を知らない医師

・発達障害の不器用さを知らない医師

・発達障害の認知特性を知らない医師

・発達障害のフラッシュバックを知らない医師

・発達障害の誤作動、誤認識を知らない医師

・発達障害の空想・想像能力を知らない医師

・発達障害のトラウマ形成を知らない医師

・発達障害の解離性症状を知らない医師

・発達障害の統合失調症様症状を知らない医師

・幻覚や妄想で統合失調症以外を疑わない医師

・幻覚や妄想を統合失調症と決めつける医師

・減薬や妄想を薬だけで根治させようとする医師

・副作用で苦しんでいる患者を放置する医師

・漢方薬やサプリメントなどを使わない医師

・代替治療や代替療法に関心のない医師

 

 まだまだたくさんありますが、まあ、これくらいのことを医師が知っていれば、発達障害なのか統合失調症なのかの大きな誤診は避けられるかもしれません。

 しかし、現実は「幻聴≒統合失調症」ですから、薬剤過敏を持っている発達障害の人が誤診されたら、たいへんな被害にあい、それが現実には非常に多い。

 せめて医師がこの視点を持って診察に臨んでくれていたら……と思います。

 

 と同時に、一方では、自身で患者を発達障害と診断しておきながら、こうした特性について無知の医師もいます。チェック方式の診断基準ではこうした特性は対象になっていません。

 

 また、最近の「流行り」ですが、最初は統合失調症と診断し、薬物治療を行っても効果がないため、「発達障害と統合失調症の併発」とか「発達障害の二次障害としての統合失調症」とか、「発達障害が基礎にある統合失調症」とか、「苦肉の策」ともいえる診断名をひねり出す医師が増えています。

 それはもちろん、最初の統合失調症診断による薬物療法が失敗したにもかかわらず、それを認めたくないため、統合失調症と診断名を捨てられない医師のご都合主義のようにも思えます。

 ともかく、「発達障害が診れない医師」は非常に多い。診断はできても、「診る」ことはできないのです。

 医師の教育の問題もあるでしょう。統合失調症の勉強ばかりしているから、何を見ても統合失調症に見えてしまう。そういう医師が多いし、それが精神医療被害の根幹を成しています。ここが変わっていかない限り、精神科の治療に効果は期待できない、と思います。

 

6月2日に長沼医師の講演会があるので、参加してきます。

おもしろかったら、またご紹介します。