新たな医師へ

 Tさんは通院することさえ困難な状態になりましたが、何とか回復をはかろうと、ある医師を頼って受診しました(かなり有名な医師で、予約がつまっているようです)。

 その医師がはっきりこう言ったそうです。

「これは典型的な減薬の失敗」

 そしてそのあとで、「これは難しいなぁ~」。

Tさんは愕然としましたが、医師の「一旦薬を戻してみますか?」との意見に従い、再服薬となりました。

しかし、医師が言うには「症状が出てから半年くらいの時間が経っているので、戻るかは分からない」とのこと。再服薬した薬は以下の通りです。

・デパス3㎎

・ドグマチール50㎎ 朝・昼・夕。

再服薬をした結果、やはり、医師の言うように、以前の状態に戻ることはありませんでした。ただ、再服薬する前よりは少し楽になったそうです。

再服薬した際、医師はこうTさんに言いました。

「私がまた薬を出してしまったので、これらの薬は私が責任持って慎重に減らしていきます」

こうした言葉がどれほど患者を安心させることでしょうか。

現在Tさんはこの医師にかかりながら、減薬を目指しています。

車椅子生活からは何とか解放されたものの、脚に力が入らない症状は続いています。現在はB型作業所へ通い、パソコンを習っているとのこと。そして、今後は、かねてより考えていた農園がオープンするので、そちらに職員として働く予定とのことです。

体調は少しずつですがよくなってはいるようですが、脚の脱力感は相変わらず続いていると言います。

 

「薬によって、ここまで人生が狂うとは……。思ってる事と、身体の動きが一致しないのである。道を歩いていて、信号が変わりかけてしまっても、足が上がらず走れない……。悲しくなってしまいます。

でも、仕方ありません。前に向かわなければ。仕事や行動も限られてしまいますが、その範囲の中で選択しなければ。そこで選んだのが「農作業」。」

Tさんのブログの記事です。(ブログ https://ameblo.jp/hatomarukun/

 

辛い症状にもめげずに前に向かっているTさんですが、やはり、長期服薬の影響は多大なものがあります。Tさんとしてもなぜこうなった? なぜ、なぜ、の思いは消えません。そして、たどり着くのは、精神科に連れていった家族への負の感情。それは致し方のないことです。現在も同居している母親に対する複雑な思い。あのとき、連れていかなければ、薬をもっと早くやめていれば……。

 子ども時代の服薬は、こういう形で家族間に影を落とします。もちろん、親に悪意はなく、当時としては情報も、調べる術もなかったことは重々わかっていても、それでもどこかに原因を見つけたくなるのが人間というものです。

以前取材した方で、Tさんの話ではありませんが、ある女性は、服薬を親からの虐待と受け取り、そのことでかなり苦しんでいました。それもまた向精神薬のなせる業なのです。

 

なぜこんなことになったのか、医師への問いかけ

それにしても、よくもまあ、医師は前述のような薬を30年も処方したものです。

Tさんは、多剤処方した都立病院と、減薬をした国立の大学病院のカルテ開示をしています。そのカルテを見てわかったことは、医師たちの薬に対するあまりに安易な考え。減薬についても、薬を減らしてすぐに出たもの以外は離脱症状ではないという考えのようです。

「私は何も恥ずかしいこともないので、開示されたカルテを公開したいくらい」と言います。

 このカルテ開示を経て、Tさんは自分がなぜこのような多剤処方を受けることになったのか、どうしても知りたくて、当時の主治医宛、内容証明で回答を求めました。

 すると突然、医師から電話が入ったそうです。

 受話器の向こうの声は、当時とは打って変わって、非常に丁寧な口調だったそうです(それまでは何か質問すると、怒り狂うような激しい態度でした)。

 医師は猫なで声でこう言いました。

「私が診ないと治らない」

「いつも気にかけていました」

「(多剤処方は)仕方なかった」

そして、最後に、「50歳になっても診るから病院へ来てくれ」とも。

Tさんはこう答えました。

「それではまずは手紙でお返事下さい」

その医師からの手紙を以下に示します。以前Tさんからメール添付で読ませていただき、今回Tさんの許可を得て、ここに公開します。

 

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○○様(お母さん宛になっています)

前略

お手紙拝見いたしました。ご質問について以下に回答します。

〇 「うつ病」には様々な種類があります。Tさんの場合は「反復性うつ病」です。

〇 学齢期に「強迫性障害」で発症した場合には、思春期以降に「反復性うつ病」を併発することがしばし見られ、大人になってから発症した通常の「うつ病」とは違って、抗うつ剤や安定剤が効きにくいことは良く知られた事実です。

〇 「反復性うつ病」の原因は不明ですが「強迫性障害」がベースにある場合が多いことが知られています。そして「強迫性障害」の基礎には「発達障害」がしばし見られますが、Tさんの場合には「発達障害」の診断はなされていません。

〇 季節の変わり目や、はっきりした原因が見られなくても「反復性うつ病」は再発したり、病状が悪化します。

〇 「反復性うつ病」はいわゆる「難治性うつ病」です。生涯にわたって服薬をしなければならない場合が多いと知られています。

〇 従って「反復性うつ病」がなかなか治らないのも、症状が良くなったと思うと再び悪くなるのも病気そのものの性質によるものです。「薬あるいは多剤併用による薬の副作用」によるものではありません。

〇 精神科の薬には「眠気やふらつき」「手足のふるえ」などの副作用がしばしば見られますが、それぞれの薬の作用や副作用についてはその都度注意しました。

〇 今後とも主治医の先生の指示に従って治療を進めて下さい。

 

以上ご質問に対する回答とします。

                                  草々

    

    平成30年11月30日

                            ○○ ○○

 

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どこをどう読んでも、現在の状態に合わせて、「病名」やら「経過」を辻褄合わせで書いているとしか思ええない文章です。

「よく知られた……」とありますが、だとしたら、エビデンスのある確かな文献を示してほしいです。

 

〇 従って「反復性うつ病」がなかなか治らないのも、症状が良くなったと思うと再び悪くなるのも病気そのものの性質によるものです。「薬あるいは多剤併用による薬の副作用」によるものではありません。

こういう話は耳にタコができるほど聞いてきました。正直、うんざりします。

 

こんなふざけた手紙でお茶を濁され、それで当事者が「なるほど」と納得するとでも考えているのでしょうか。患者を、患者の人生をあまりに軽く考えています。

こういう医師がかつては都立病院の副院長を務め、さらに現在もなお子どもの診療を続けているのです。親は医師を、医療を信じて、薬を飲ませる……。

Tさんは自らの経験を伝えることで、これから子どもを精神科に受診させようと考えている親御さんに何とか踏みとどまってほしいと思っています。これ以上、向精神薬の被害者を出してはいけない。医療が人の人生を、ここまで左右してしまうということ、そんなことがあってはいけないと。

 

 子ども時代から薬を飲むことで、人生が大きく変化してしまう。これは事実です。Tさんが子どものころ入院して仲良くなった友だちがおり、最近連絡が取れるようになったそうですが、その方は現在生活保護を受けているとのこと。

 そういうことも大いに起こりうる、それが向精神薬の長期服薬です。

 そして、子どものころからの服薬はどうしても長期服薬につながっていきます。「その時」がよければ……。しかし、そうはいかないことのほうが多い。

 もう一度、考え直してみてほしい。どこでUターンするのか……。

 

 Tさんは今、減薬の辛さを抱えながらも、新たな出発を目指しています。

 もし薬を飲まなければ……その思いが消えることはないと思いますが、それでも前を向いて、できることを探りながらの再出発です。Tさんを応援します。