石郷岡病院事件の控訴審判決が、昨日1121日、午後2時から、東京高等裁判所でありました。傍聴しましたが、結論だけまず書けば、二人の被告人ともに「無罪」です。

 

 一審判決では、一人の被告人(菅原被告)の暴行を認め(確かに被害者を一回蹴っている)、「暴行罪」という判決(暴行罪は、暴行はあったが、被害者がけがを負っていない場合に適用)で罰金30万円。もう一方の被告人(田中被告)については、菅原被告の暴行を手助けするように被害者を抑制したという検察側の主張は退けられ、抑制行為は「看護行為」として「無罪」という判決でした。

 この判決に対する昨日の高裁の判断は、まず田中被告については、検察の控訴を棄却して、そのまま「無罪」になりました。

そして菅原被告については、確かに暴行している(高裁では二回蹴っていると認定)、しかし、一審の判断通り、被害者の首の骨が折れたのは、田中被告が抑制したときに折れたのか、菅原被告が蹴ったときに折れたのか定かでないので、障害罪(被害者がケガを負ったときに適用)は不成立となり、やはり暴行罪という判断です。しかし、この暴行罪は公訴時効が3年なので、すでに時効が成立している(一審の判決時点で公訴時効成立でしたから、[法令適用の誤り]があった)ため、一審判決を破棄して、免訴という判決です。

 免訴というのは、有罪無罪の判断をせず、裁判を打ち切ることを意味します。

 

 この裁判結果を伝えるニュース。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181121-00000098-kyodonews-soci&fbclid=IwAR0WVQWhMzLicpyxGvyFgltwORICcCrj7HYBN6IRWfTiXBxwcH5fnqDgP_s

 被害者お姉さんのブログ

http://gunter75.blog.fc2.com/blog-entry-180.html?fbclid=IwAR3K1Rv1aMp2Lp9BRaXNQ3gLp2fQSat72-VrjXLlDs9-lO5Y3xuLDIbouMI

 

 私は今回の石郷岡病院事件の本を書くにあたり、この裁判において精神科看護の専門家として意見書を書いた大学の先生に取材しました(この意見書を裁判所は却下しています)。また、刑事裁判における被害者参加制度で被害者側から委託を受けた弁護士にも取材し、そうした方々の意見を総合的に考えても、高裁では「差戻」の可能性が高い(なんといっても一審の判決が公訴時効の成立している罪ですから)という感触を得ていました。

 しかし、現実は「免訴」という結果でした。

 正直、司法への不信感はぬぐえません。

 人ひとり亡くなっているのに、誰も何の罪にも問われない。そんなことがあるのでしょうか。まるで法律の穴をくぐるかのような両名無罪という結果。

 

 うがった見方をすれば、こんなことまで想像できます。

そもそもこの裁判は最初から仕組まれていたのでは? 最初から「無罪」という筋書きだったのでは? 圧力あるいは偏見のなせるわざ。

しかし、一審で両名ともに「無罪」にするわけにはいかないので、とりあえず実行犯を公訴時効の成立している「暴行罪」という判決でお茶を濁し、菅原、田中両被告の「共同正犯」(田中被告が抑制し、菅原被告が暴行を実行)を否定しつつ(なんといっても田中被告の行為は看護行為という判断ですから)、どちらの行為で骨が折れたのか、その原因をうやむやにすれば「障害罪」は適用できません。それでも菅原被告は「暴行罪」=確かに暴行はあった。しかし時効なので免訴(無罪)です。結果的に最初の目論見通り、二人とも無罪というわけで、これは実に素晴らしい筋書きです。

この裁判の要はおそらく「暴行罪」という判決にあります。わざわざ一審で違法判決を出すなど(専門家がこんなミスをするでしょうか?)何かの布石としか思えません。

しかも、一審の裁判長(高橋某)は千葉地裁の判決後、人事異動でまたしてもこの石郷岡病院事件を扱う東京高等裁判所の第11刑事部に移ってきているのです。これは何を意味するのでしょうか。高裁の裁判長は栃木力氏でした。

http://www.courts.go.jp/tokyo-h/saiban/tanto/tanto/

 

今回の件でつくづく感じるのは・・・

もしこの事件の舞台が精神科病院でなかったら?

被害者が精神科病院に入院していた患者でなかったら?

同じ判決になっていたでしょうか?

 

いったいこの裁判は何だったのだろうと思います。「茶番」とはこういうことを言うのでしょう。

次回の本では、この石郷岡病院事件を「検証」しています。

この二人の元准看護士の石郷岡病院における仕事ぶりはいかなるものであったか。そもそも精神科の看護とは? 被害者である男性は本当に「病気」で状態が悪化していったのか? 男性に行われためちゃくちゃな医療の結果ではなかったか? 隔離拘束の問題。看護、医療、薬の使い方など、つぶさに検証しています。

こんな真っ黒な出来事でも誰にも罪がないとする日本の裁判、とくに精神医療裁判の不正義には、驚くべき非人道的な思想が隠れています。