昨年の5月、日本の小中学校で英語を教えていたニュージーランド人の男性(27)が、精神科病院で身体拘束を受けた後、急死した問題は海外でも大きく報じられました。

 その身体拘束に関して、5月10日の日本経済新聞に以下のような記事が載りました。

 

 精神疾患患者

 26パーセント拘束経験

 

 統合失調症をはじめとする精神疾患患者の26%が、医療機関で身体拘束を受けた経験を持っていることが精神障害者の家族などでつくる「全国精神保健福祉会連合会」の調査でわかった。拘束が48時間以上にわたるケースもあった。

 

 記事によると、48時間以上の拘束は全体の30.9%にも上り、障害者家族らの声として「説明不足」を問題の一つとしてあげています。

 調査を行った「全国精神保健福祉会連合会」の担当者は「欧米では精神疾患の患者の身体拘束はまれで、あっても20時間が限度。日本の現状は先進国として異常だ」と指摘しています。

 その原因の一つに挙げられるのが、精神科病院の人手不足です。が、本当に人手不足だから拘束が増えているのでしょうか。

 厚生労働省の集計では、精神科病院で手足をベッドに括り付けるなどの身体拘束や施錠された部屋での隔離を受けた入院患者は2014年時点で1万682人。10年間でほぼ2倍になっています(2003年は5109人)。10年前も精神科病院は「人手不足」であったはずです。にもかかわらず、ここにきて倍増するというのは、「人手不足」をその理由に挙げるのには無理があるということです。

 朝日新聞の調査によると、「大きな原因は人手不足であり、それが解消すれば多くの身体拘束はなくなる」という意見に「強く同意」したのは327人中59人。

一方、「医療や福祉の担い手の意識が変わらなければ、身体拘束はなくならない」という意見に「強く同意」したのは、327人中117人です。

 精神科病院の問題を考える時、人手不足を理由にして思考停止に陥ってしまうのはもうやめたほうがいいでしょう。

 

 身体拘束は、憲法で保障された人身の自由を奪う行為ですが、精神科では精神保健福祉法により、精神保健指定医の資格を持つ精神科医が「やむを得ない」と判断した場合に限り、最小限の時間行えることになっています。

「やむを得ない」と判断する、その精神科医の判断が10年間で身体拘束倍増の現実を作り出している、と言っては言いすぎでしょうか。

精神保健福祉法の規定により身体拘束の対象となりえる基準

① 自殺企図や自傷行為が著しく切迫している

② 多動または不穏が顕著

③ 精神疾患のために放置すれば生命に危険が及ぶ恐れがある

 

 こうした基準も結局は指定医の主観によって拡大解釈され、結果として安易な拘束につながっているのではないか・・・。

 精神科は「安易」に満ちています。

「安易」な診断、「安易」な投薬、「安易」な医療保護入院、そして「安易」な身体拘束。

 多剤大量処方によって鎮静させるか、実力行使で縛り上げるか。精神疾患患者に対する医療者が行う「医療行為」はあまりに短絡的で乱暴と言わざるを得ません。

 厚生労働省は昨夏、身体拘束の実態調査に乗り出したそうですが、今後どのような対策をとっていくことになるのか、注目したいと思います。

 

「精神科医療の身体拘束を考える会」の長谷川利男氏の文章を引用します。

2017321日の共同通信配信記事で、日本精神科病院協会河崎副会長(当時)は、身体拘束増加について、「精神科救急の整備が進み、緊急性の高い時期の患者が増えているのではないか」とコメントしている。「精神科救急」を整備すると身体拘束が増加するというわけだ。しかし重度の精神疾患をもった人が近年、急に増え始めるなどということは有り得ないだろう。精神医療においては、SSRIといううつ病の「新薬」が開発されると、うつ病「患者」が増加するという「珍現象」も起きたが、この「病棟」や「システム」を作ると身体拘束が増えるという論理はそれと似ている。すなわち、「作られている」可能性がある。」

http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20180409.html