CBnewsの12月10日の記事に、以下のようなものがあった。

 そのまま引用します。



統合失調症の治療目標は「リカバリー」- 藤田保健衛生大の岩田教授

藤田保健衛生大医学部の岩田仲生教授は9日、大塚製薬が東京都内で開催したセミナーで講演し、統合失調症の治療について、患者が2年以上、健常者と同じような社会生活を送られる「リカバリー」を目標とすべきとの考えを示した。【松村秀士】


 統合失調症は、幻覚や妄想、意欲の欠如、感情の起伏の喪失などの症状を特徴とする疾患で、100人に1人程度が発症するとされている。治療は薬物療法が一般的で、発症した場合、入院したり、会社などを辞めたりして、発症前の社会生活が送れなくなる人も少なくない。

 岩田教授は、この疾患の患者に軽い症状は残るものの、患者が健常者と同じ社会生活を2年以上送られるようにすることが、「治療の目標」とした。

 一方で、岩田教授はリカバリーを実現する難しさも強調した。患者118人に行った追跡調査で、治療を始めてから5年目のリカバリーの到達率は13.7%にとどまっているデータを提示。その上で、リカバリーが難しい理由として、患者が服薬を中止し、症状が再発する事例が多いことを挙げた。

 患者876人に行った調査(複数回答)では、半数近くの人が、「時々、服薬するのを忘れる」(48.4%)と回答した。このほか、「時々、服薬するときに不注意である」(30.4%)、「病態がよくなった時に服薬を止める」(24.2%)、「病態が悪くなった時に服薬を止める」(22.3%)といった答えもあったという。

 岩田教授は、「12日の薬の飲み忘れで再発する恐れもある」とし、リカバリーを実現する上で、継続した服薬の必要性を指摘した。

(以上)



 2年間、薬を飲みながら、健常者と同じような社会生活(働くことも含まれるだろう)を送るのが目標……?

 そもそも、2年という期間がどこからでてきたのだろう?



この講演は、「大塚製薬が開催した、統合失調症の理解を深めるプレスセミナー」である。つまり、岩田氏は大塚製薬の意向に沿うかたちでしゃべっているということ。

(※ プレスセミナーとは、企業や自治体、NPO法人などの団体が、自社の製品やサービス、業界の動向などを知ってもらうために、マスコミ関係者や各界のオピニオンリーダーを招いて行う勉強会こと。)



 しかし、考えてみれば、「服薬しながら、健常者並みの安定を目指す」――というのは、当事者ではなく、医者の仕事、責任だろう。(処方の仕方次第、ということだ)。

 にもかかわらず、この記事の後半は、「リカバリーを妨げるのは患者が薬をきちんと飲まないから」というお定まりの理由を挙げている。治療(リカバリー)がうまくいかないのは、患者のせいというわけだが、「医師に健常者並みに安定できる薬の処方ができるのか?」という問題の方が先である。



岩田仲生氏と大塚製薬の関係

 ところで、この講演を行った岩田氏と大塚製薬・・・おそらく「ずぶずぶの関係」と思われる。

 なんせ今日(15日)も岩田氏は大塚製薬の医薬関係者向けのwebセミナーをオンデマンドで行う予定らしい。

 https://www.otsuka-elibrary.jp/library/seminar-schedule/locationId/1/#860


 内容は、統合失調症薬の持続性注射剤に関するもので、もちろん大塚製薬にはエビリファイの持続性注射剤がある。

 承認は欧米が先だったが、日本でも今年の5月から発売されている。

 つまり、岩田氏はその旗振り役というわけだ。


 エビリファイは2015年の特許切れを前に、大塚製薬(大塚ホールディングス)としては収益減が見込まれたが、特許期間延長を狙って同薬の双極性障害(躁状態)やうつ病への適応拡大、さらに持続性注射剤という剤形変更を行ったというわけだ。

 エビリファイは、2015年3月までの1年間の世界売り上げが6600億円を超え、米国では5400億円強を記録した。この薬の売り上げが伸びたのは、上記のように幅広い適応症を持っていたためで、ちなみに、エビリファイの適応症ごとの処方割合は、統合失調症が12%、うつが23%、双極性障害が28%、その他が40%弱である(意外に統合失調症が少ない。その他の40%というのは、認知症、あるいは発達障害向けか?)。

エビリファイは大塚製薬の大いなる稼ぎ頭であり、同社としては何としても稼げる期間を延長したいと思うのは当然のこと(つまり、適応拡大は患者のためではなく会社のためである)。

 また、エビリファイ後の薬として、同社はすでに後発品(ほとんど同じような内容の抗精神病薬)であるレキサルティ(ブレクスピプラゾール)を創薬、それが今年7月、アメリカでFDAの承認を受け、日本でも発売間近とされている。

 そんな大塚製薬とべったりの関係の岩田氏は、つまり講演会でこう言いたかったのだろう。

「抗精神病薬(エビリファイ、いやいやもうすぐレキサルティもできます)を患者さんはきちんきちんと飲み続け、まずは2年間のリカバリーを目指しましょう。もしどうしても飲み忘れてしまうようでしたら、持続性注射剤もあります(もちろんエビリファイの)、これは月に1度ですみますから、これを打ち続けて働きましょう。社会復帰です。どうせ治らないのですから、せめてリカバリーを目指しましょう!」



 岩田仲生氏は今年9月に発表された「日本精神神経薬理学会 統合失調症薬物治療ガイドライン」の作成に関わっている(副議長の一人)人物でもある。

 その中で、日本神経精神薬理学会として、「作成メンバーの中立性と公明性をもって作成業務を遂行するために」「利益相反情報の開示」を行っている。

 岩田仲生氏の部分を書き出してみる。

「アステラス製薬()、アッヴィ合同会社、エーザイ()MSD()、大塚製薬()()アークメディア、()医学書院、()先端医学社、()ツムラ、()日経BP()メディカルレビュー社、()フォーライフメディカ、グラクソ・スミスクライン()、塩野義製薬()JUMPs研究会、大日本住友製薬()、第一三共()、武田製品工業株、田辺三菱製薬()、中外製薬()、日本イーライリリー()、日本メジフィックス()、ノバルティスファーマ()、ファイザー()、ブラケット・グローバル()Meiji Seika ファルマ()、メビックス()、ヤンセンファーマ()、吉富薬品株

から研究補助金、講演等の謝礼および執筆等の原稿料、寄付金を受領している。」



 利益相反情報を開示すればいいというものではないだろう。開示がイコール「中立性の証明」にはならないはずだ。

 それにしても、岩田氏はほとんどの大手製薬会社と付き合いがあることがわかる。他の精神科医の情報も開示されているが、議長の石郷岡純氏をはじめ、多くの医師がものすごい数の製薬会社とつながっている。

http://www.asas.or.jp/jsnp/img/csrinfo/togoshiccho_00.pdf

 もちろん、製薬会社の資金なくして研究は進まず、したがって薬の進歩はないのだろうが、それにしても、ここまで真っ黒で、こういう人たちが作る「薬物療法のガイドライン」がどういうものになるか、おおよその想像はつく。およそ患者のためとは言い難い、製薬会社の方向を向いた代物になることは、資本主義社会の常識だろう。

 

 この岩田氏は数年前に、厚生労働科学研究費補助金事業として、「SCAP 法による抗精神病薬減量支援シート」なるものを作成した一人だ。

SCAP 法」というのは、「1 つずつ、ごく少しずつ、休んでも戻しても可とした減量方法」とのことだが、岩田氏の所属する藤田保健衛生大学を受診して(もちろんそこに岩田医師もいた)、減薬を行った女性がいる。

結果は、見事に失敗。減薬速度が早すぎた(減薬ブームで何でも減らせばいいと思っているかのような減らし方)ようだった。つまり、岩田氏の唱える「SCAP 法」とやらは何ら効力を持たない減薬法であることの証明。

しかし、その結果として、女性は手に負えないほど悪化して、手に負えなくなった病院(医師)がよくそうするように、電気ショックを勧めてきた。自分たちが勝手に減薬して、ここまで悪くしておいて、電気を拒否すると今度は放り出すという精神医療の悪しき習慣そのままに、結局、家族がその状態の当事者を引き受けざる負えなくなった。こうした成行きのどこに「医療」がある?

きれいごとを並べても、実力が伴っていない。患者の方を見ていない。製薬会社のほう、あるいは「権威という牙城」のほうばかりに目がいっている。

 製薬会社の講演ばかり引き受けて、患者のためにといいながら薬の宣伝を並べ立て、現場では取り返しのつかない患者を作り続けることが精神科医の仕事にならないようにと、最大限の皮肉を込めて、切に願う。

 

東京茶話会のお知らせ


 2016年1月17日(日) 午後1時~5時

 巣鴨にて茶話会を開催します。

 終了後は、新年会を考えていますので、お時間のある方はどうぞご参加ください。

 申し込みは、下記アドレスまで。

 sawakai01あっとgmail.com (あっとを@に変えてください)

 かこまで。