2011年8月の記事に、次のようなものを書きました。

 http://ameblo.jp/momo-kako/entry-10982632374.html


 冒頭部分を引用します。

「Mさんの20歳になったばかりの息子さんは昨年(2010年)の11月頃、統合失調症とも思える症状を呈するようになりました。どうしていいか迷った末、精神科へ連れていったものの、息子さんは看板の「精神科」という文字を見て、受診を拒否。仕方ないので、そのまま連れ帰ったと言います。

Mさんはご自身もアメブロをやっている関係から私のブログも読んでいただいていたとかで、精神薬の怖さや誤診についての知識を持っていたため、無理強いはしませんでした。

しかし、状態がどんどん悪くなっていく息子さん――」



ということで、まずはブログの記事を読んでいただきたいのですが、結局息子さんは医療に関わることなく少しずつ改善し、その後、母親のMさんを通して笠陽一郎医師のセカンドオピニオンを受け、統合失調症ではなく、広汎性発達障害の可能性を指摘されました。

そうした様子を、私は2013年7月に「がんの放置療法」になぞらえて、Mさんの息子さんの例を以下のように紹介しました。

http://s.ameblo.jp/momo-kako/entry-11577974069.html



「(息子さんは)まず昼夜逆転の生活。被害妄想的になり、監視されているなど言い出す。幻聴もあったようで、目つき顔つきもどこかおかしい。遁走もあった。

しかし、母親(Mさん)が精神科に連れて行こうとしたところ、息子さんは「精神科」という文字を見た途端、逃げ出して、そのまま受診せず、まさに「放置」状態となった。

仕方なく、しばらく様子を見ることにした。

すると、症状は悪くなるどころか、むしろ薄皮をはがすように、少しずつ少しずつだが、改善され(まず眠るようになったという)、半年もたつ頃には以前の状態に戻ったということだ。

もし、最初の状態で医師にかかっていれば、薬による治療が始まっていたのは確実である。」


この記事をたまたま読んだMさんから、つい先日、連絡をいただいたのです。

2011年以来の息子さんの「その後」が書いてありました。紹介させていただきます。



「久しぶりにかこさんのブログに入ってみました。気になるタイトル(『精神疾患の放置療法』)だったので、見てみたらうちの事でした。


あれからのことを書きます。今、九州にいます。

単身赴任が長い夫のもとへ、息子を連れて来て2年たちました。

予備校時代、統合失調症のように錯乱したあと、薄皮を剥がすように回復してきた頃、もうすでに22才になっていました。

私と2人よりも、夫がいてくれる方がもっとよくなるかもと思ったからです。

一回も病院には行かずじまいです。

もう一生引きこもりでも仕方ないと腹を決め、自分のことはやれるようにならないと、親がいなくなった後の事を思い、料理や家事を仕込んでいました。


九州に来て、小さな賃貸で3人暮らしが始まりました。

その後、私が盲腸で入院。さらにガンの疑いで手術することになりました。

ガンだと聞いて、正直、ラッキーだと思いました。

知人の息子さんでお母さんがガンになったら長い引きこもりから抜け出した方がいたからです。

手術後の病理検査でガンではなかったのですが、そのころから息子は、ますます良くなり自分で夜勤の仕事をみつけて働き始めました。


とても生き生きしていて、完全に治ったと思い、一年たったら失業保険をもらいながら勉強をと望んでいました。

私の考えたストーリー……。


かし、仕事始めて10ヶ月くらいたった時に、また幻聴が現れたようです。


長時間、夜間に働いた疲労なのか?


上司はいいけど、同僚が原因だったと後で聞きました。やはり対人関係からまた発症したようです。

あと半月で一年というときに退職。結局、失業保険はもらえず仕舞い。


がっかりしましたが、本人が苦しい苦しいというので、仕方ない。

どういう風に苦しいのかと訊くと、声が聞こえるそうです。ひどい事を言って、責めたりだと思います。

自分は精神病だと言います。統合失調症だと。


でも、病院に行っても治らない、というこだわりがあります。



それでも息子は、苦しいと言いながらも、市役所の手続きなど公的な場所には一人ででかけて行きます。欲しいものは買いに出かけます


あまり苦しがるので本屋で漢方薬を調べ、「柴胡加竜骨牡蛎湯」を飲ませてみました。この5月くらいからでしょうか。

漢方薬屋さんは効く薬は本人が飲んだらすぐわかるという事でした。彼にはあっているようで、苦しい苦しいというときに飲ませていると好感触です。


勝手に飲むのをやめるとまた悪くなるようなので、今は半強制的ですが、かなり調子はいいようです。


笠先生が教えてくださったウコンもたまに飲んでいるようですが、いいと言っています。ただ、抑肝散は彼には合わなかっ
たようです。もっと息子に効く漢方薬があるのではと考えています。



現在24歳。

実は2週間くらい前に一人暮らしを始めました。一人は気楽でいいそうです。それまでいくら口うるさく言っても出来なかったことができるようになっていたり、日々成長している事を実感できます。

感謝する気持ちも生まれているようです。


苦しさは時々出てくるけれど、前に比べたら全然よくなったそうです。


家賃と光熱費は親が払っていますが、年金や税金や携帯代、健康保険の支払いはいまはすべて息子になっています。働いて貯めたお金を使っています。以前は親が払っていましたが、いつまでも親はいないから、少しずつ自分のことは自分でできるようにと。

それでも、特性的に頑固なので、支払いの移行には時間をかけて、彼が納得するいいタイミングを見つけながらのことでした。貯金がなくなったら、また仕事も考えると言っています。


私が朝、犬を預けに行き夕方引き取りに行くので、様子はチェックできます。

ご飯も自分で買い物に行き、自炊しているので、このまま良い方向にいけばいいなと思っています。

最近はかなり反抗期です。

「発達障害も発達する」と福岡の引きこもりの会の講演で知ったけど、息子も発達しているのか、私の料理の差し入れをこのごろは拒否します。



最近私が考えるのは、うちの息子は笠先生の見立てどおり広汎性高機能発達障害だと思われるが、昔から言われる精神分裂症、統合失調症と(症状としては)同じものなんじゃないかと思ったりします。

 統合失調症なら、放っておけば廃人狂人。そして、少しでも早く薬物治療をというけれど……どうなんだろう?

薬でかえってひどくなっている人がいる。

うちは、引きこもりはよくなっていないけど、病院にいかなくても、廃人にはなってない。

人それぞれ生育環境が違うし、うちも引越しばかりだったし、私もいろいろと反省すべき点も多いので、今息子がこうなった事に対しては責任があるなとか日々考えつつです。」



こんなメールを送ってくれたMさんに返事を書くと、Mさんから、お礼の言葉とともに、「放置療法」に対する疑問を投げかけられました。


「放置療法という概念がよくわかっていません。


 我が家の場合はただの放置ではない。いろんな情報を調べ、試行錯誤しながらやってきています。」


 確かにその通りです。医療的には「放置」ですが、「発達障害」に関しては「放置」ではなかった。

 当事者の特性を見極めながらの対応は必要ですし、サポートやアプローチの工夫(つまり、発達障害に関する情報収集)も大切です。


Mさんの息子さんのように、「引きこもりはよくなっていないけど、病院にいかなくても、廃人にはなってない」――これは大きな真実かもしれません。

精神科医がMさんの息子さんのようなケースを目の当たりにすれば、きっと「広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)だから、投薬なしでもやれたんだ」と言うでしょうが、それは後出しジャンケンのようなもので、もし、幻聴が出た時点で受診をすれば、多くの場合統合失調症という診断になり、投薬治療が始まったに違いないのです。

統合失調症「のような」症状が出て、そこで精神科を受診して、広汎性発達障害と診断をされて、抗精神病薬の投薬を受けず、特性に合わせたアドバイス、親への対応の工夫などが医師からなされるとしたら、精神医療の存在意義も多少は上がると思いますが、そういう方向にもっていける医師がどれくらいいるか……(?)。



Mさんの息子さんのケースは、医療が介在しなかった場合の成り行きとして、たいへん貴重な体験談と思います。

子どもに「幻聴」等が出たとき、親は慌てます。ネット等で調べても、ほとんどが「早く専門医の診断を」といったものばかりです。「手遅れ」という言葉に恐怖心を煽られ、「放置しておくと取り返しのつかないことになる=廃人」と言われれば、もう「専門医」を受診しないという選択はほぼなくなるでしょう。

慌てて受診して、医師の言葉を鵜呑みにして、投薬も仕方なし(そのうち薬漬けも仕方なし)といった心理に陥っていく……。

「手遅れ」というのは、実に巧妙な言葉です。オーストラリアのマクゴーリ―が早期介入を叫んだ時も「手遅れになる前に」がキャッチフレーズでした。

 しかし、慌てて受診した先の医療の質を考えると、「そんな言葉に惑わされないで」と言いたくなります。Mさんはあくまでも「うちの場合」というとらえ方をされていますが、もしお子さんに幻聴等が現れても、それほど慌てる必要はない(慌てて受診する必要はない)と、これまで多くの事例を見てきて思います。

 しばらく様子を見る……。子どもの内部の出来事という限定的なとらえ方をするのではなく、何か外に「原因」があるかもしれないという視点も大切です(学校等での出来事)。あるいは、家族関係の見直し。そして、発達障害という可能性。

 そして、もし統合失調症だとしても、いくつかの研究では「投薬なし」のほうが「長期的」には良好な転帰を示しているという結果が出ています。


 Mさんも書かれているように、広汎性発達障害と統合失調症――症状的にはくっきりした違いはないかもしれません。しかし、いったん統合失調症と診断された後のことは違いがあります。統合失調症の場合、医師も投薬への敷居が低くなる。

 が、ある医師から指摘されたのですが、発達障害の二次障害に対して、統合失調症に勝るとも劣らない投薬がなされているということです(だから、発達障害の二次障害という視点には意味がない、どころか有害無益であると――これは本当でしょうか)。

また、発達障害の二次障害として統合失調症を発症、あるいは発達障害と統合失調症の併発という診断もかなりあります。しかし、これらは、抗精神病薬をたくさん使いたいための言い訳のような診断に見えます。

 つまり、精神医療に「幻聴等」で関わると、こういうわけのわからない世界に引きずり込まれるということです。そこから抜け出すのがどれほど大変なことか……。

 親御さんとしては子どもの「幻聴」は「放置」できない問題です。しかし、「廃人化する統合失調症」というものがそれほどたくさんあるわけではないというのは事実です。そもそも「廃人化」するのは、薬の影響の方が大きいように思います。

 かつてMさんがそうしたように、子どもが幻聴等を発して、必死にネットで情報を探す親御さんに、この情報が届くことを祈っています。