今日は、最近出会ったちょっと気になるいくつかの事柄を取り上げようと思います。

 

ベンゾジアゼピン減薬中の抗生物質服用について

 アシュトンマニュアル(序文、7頁)には、ベンゾジアゼピン減薬中に抗生物質を飲むことに注意を促しています。(以下引用)

「何らかの理由で抗生物質は、時に離脱症状を悪化させることがあるようです。しかしながら、抗菌剤の一種であるキノロン剤は、実際にベンゾジアゼピンを GABA 受容体の結合部位から外します。これらはベンゾジアゼピンを使用中あるいは減薬中の人に、激しい離脱を引き起こす可能性があります。ベンゾジアゼピン離脱中に抗生物質を摂取する必要があるかもしれませんが、可能ならキノロン剤は避けるべきです(少なくとも 6 種の異なるキノロン剤があります。疑問がある時は主治医に問い合わせてください)。」

 

 じつはある方からメールで相談を受けました。

 ベンゾの減薬中で、歯科に行かなければならなくなり、このアシュトンマニュアルを読んでいたのでキノロン系の抗生物質は避けていたとのこと。それで、「クラリス」(マクロライド系)を服用。しかし、離人感がでてしまったために中止となったが、歯肉の腫れが引かなかったために「ミノマイシン」を処方されて飲んだところ、1日の服用で強烈な離脱症状がでてしまったとのことです。

 ミノマイシン(一般名ミノサイクリン)については、たまたまこのメールをいただく少し前、二つ前のエントリで、Aさんという方がコメントを入れてくれていました。

Aさんのコメント

「ミノマイシンは超が付くほどの強力精神安定剤です。インタビューフォームに書いてあります。類薬のドキシサイクリンはほとんど精神作用ないです。

ミノマイシンは処方量でも過量服薬状態のため、海外では常用する場合は体重別に用量が決まっています。日本ではこれが無いのが盲点です。そのため、短期間で薬剤性肝障害が出る薬として有名です。

ミノマイシンは一般的に血中濃度は男女差で1.6倍違います。(これは体重差によるもので性差ではないようです。FDAのデータから)

しかも、5日目で初回投与の2倍以上の血中濃度に到達します。蓄積性があるということです。

50kg以下の人であれば、一番小さい50mg錠を常用するだけで危険です。(感覚としてはエビリファイを40mgくらい飲んでるのと同じ)。」

 

 ウィキペディアにも詳しく書かれています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%B3

 これらを見ると、ミノマイシンは中枢神経に作用して、自発運動を抑制するようです。

 また、統合失調症の精神症状改善を期待しての研究も進められています。

藤田保健衛生大学の大矢一登氏らは、抗精神病薬による治療を受けている統合失調症患者に対するミノサイクリン増強療法に関する総合的なメタ解析を行い、ミノサイクリンが統合失調症の精神症状(とくに陰性症状)を改善すると結論づけています。

つまり、ミノサイクリンは統合失調症の治療薬にもなりうる「強力な精神安定剤」なのです。

ベンゾの離脱症状を抱えながらの歯科治療で、抗生物質が使う場合は、こうした薬剤に気を付けてください。

なお、クラリス(マクロライド系の抗生物質)も、ベンゾとの相性はあまりよくないようです。ベンゾジアゼピンはCYP3A4で代謝されるものが多く、クラリスはCYP 3A4に対する阻害作用があるため(ベンゾの代謝が阻害され)、血中濃度が上昇し、作用が増強されます。これはあくまで飲み合わせの話ですが、離脱症状に関しても何らかの影響があるかもしれません。

 

藤田保健衛生大学病院

ところで、前出の藤田保健衛生大学病院ですが、この大学には抗精神病薬の「減薬シート」を作成した教授もいたりするので、「減薬」には前向きのようです。

しかし、その減薬の実際はというと……。

減薬シートそのものがまったく使い物にならない代物であるように、ここでの減薬もほとんどあてにならないようです。

実際、減薬指導を受けた方(のご家族からの話)がいますが、減薬スピードがかなり速いようですし、離脱症状への対応(理解)もまったくできていない……。勝手に減薬をしておいて、状態悪化。その挙句は「治験」を持ちかけてきたり、それでもまったくよくならないと「もう電気ショックしかない」と言ってみたり。

要するに、「減薬」など表看板だけで、中身がまったく伴っていないのです。伴っていないどころか、患者を死ぬほどの目にあわせて、最後は電気ショックしかないと言い放つとは、正直、怒り心頭です。そのせいで今もたいへん苦しんでいる患者、家族がいるのです。減薬をうたうなら、もう少し「本気で」減薬について勉強すべきです。

 

子どもの頃からの向精神薬服用について

 あるお子さんの話です。中学生の男の子。不登校気味となり、幻聴・幻視があり、精神科を受診したところ、即統合失調症との診断でジプレキサの服薬が始まりました。

 しかし、幻聴はほとんど改善なし。

 そして、お母さんから話をよくよく聞くと、小学生低学年の頃から、片頭痛で「デパケンR」を飲み続けているとのことでした。小学生に片頭痛でデパケン処方……。

 デパケンRの添付文書には以下のようにあります。

片頭痛発作の発症抑制に対する、小児における安全性及び有効性については、現在までの国内外の臨床試験で明確なエビデンスが得られていない。」

 なのに、デパケンR6歳児に処方。

 そして7年後、その子どもは統合失調症という診断を受ける。

 

 この二つの事象の関連性は立証できませんが、無関係とも思えません。

子どもへの向精神薬の安易な投与、長期の服薬は、こういう流れを作りやすいです。だから、子どもへの投薬は慎重にも慎重であるべきなのです。

そのときは大きな副作用を経験しないかもしれません。が、飲み続けることで、その後の人生を、結果的に「病者」のそれにしてしまう可能性が大いにあるのです。

しかも、デパケンRの添付文書には以下のような文言もあります。

「片頭痛患者においては、本剤投与中は症状の経過を十分に観察し、頭痛発作発現の消失・軽減により患者の日常生活への支障がなくなったら一旦本剤の投与を中止し、投与継続の必要性について検討すること。なお、症状の改善が認められない場合には、漫然と投与を継続しないこと。」

 にもかかわらず、7年もの漫然処方。

 そして、新たに受診した精神科医は、その子どもの服薬歴になど目もくれず、そのとき出ている症状、訴える症状のみに対して投薬を行います。飲み続けた薬が脳に与えた影響と、今の症状とはまったく無関係であるとでも言うように。

こういう「医療」をどうたとえればいいのか、もう言葉が尽きそうですが、ともかくあまりに医師が「視野狭窄」に陥っているとしかいいようがありません。

 子どもへの長期向精神薬処方はリスク大です。子どもの人生全体で投薬をとらえるべきです。

 

赤城高原ホスピタル

 先日、赤城高原ホスピタルに行ってきました。といっても、フリーのライターとして取材のためにというわけではなく、付き添いという名目です。

 中に入って、いろいろお話をうかがってみて、ベンゾジアゼピン等の減薬や離脱症状について、精神保健福祉士をはじめ、医師も、ある程度理解はあるように感じました。理解はあるけれど、実際はどうかはよくわかりません。

が、ともかく、「絶対薬をやめたい」という固い意志があれば、それを無視して薬を盛ることはないようです。

 じつは、4年ほど前にも、ある方を入院させるためにこの病院に出向いたことがありました。PSWの面接から医師の診察まで付き合いましたが、あのころより病院スタッフの「減薬」についての理解は深まっている印象を受けました。

 4年前に付き添った方は、多剤大量処方の末、自分で減薬を続けて、最後、ロヒプノール1㎎が切れずに入院を決断しました。診察のとき、担当医は「ロヒプノールの置換薬としてデグレトールを」と指定してきました。

 翌日からロヒプノールをテグレトールに置換して、しかし、結局かなりの離脱症状に苦しみながら、それでも一応「断薬」はできました。

が、離脱症状に対して病院側のフォローは一切なしでした(今もそうかもしれません。それは覚悟しておいたほうがいいようです)。そしてその方の離脱症状は退院後もかなりしつこく続いていましたが、それも自分で耐えるしかありません。

 それでもともかく「断薬」はできたわけです。

 しかし、今回このエントリを書くにあたり、改めてアシュトンマニュアルを読んでみたところ、以下の記述がありました。長いですが、参考のために引用しておきます。

 

「ベンゾジアゼピン離脱の臨床試験で、複数の薬剤について、離脱プロセスを速めたり、離脱症状を予防あるいは緩和したり、長期的な成功率を改善させたりするのかどうかについて検討されました。……

米国で行なわれたベンゾジアゼピン長期服用者の離脱についての最近の研究では、鎮静系抗うつ薬(トラゾドン塩酸塩[レスリン、デジレル])および抗痙攣薬(バルプロ酸ナトリウム[デパケン、セレニカ])の効果が試されました。どちらも、離脱症状の激しさに何の影響も及ぼしませんでした。しかし、減薬の速度は、ベンゾジアゼピンの用量を毎週 25%ずつ減量していく速さでした。これはかなり急速な離脱です!

 46 週間の離脱の試験において、ほとんどあるいは全く効果が見られなかった他の薬剤として、ブスピロン(抗不安薬)、カルバマゼピン(テグレトール、抗痙攣薬)、クロニジン(カタプレス、時にアルコール解毒に用いられる抗不安薬)、ニフェジピン(アダラート)、アルピデムがあります。」

 

 しかし、テグレトール、バルプロ酸(デパケン)は、離脱症状自体は軽減しないものの離脱の成功率を高めたとの報告があるようです。離脱の成功率を高めたというのがどういうことなのかわかりませんが、服薬という行為による「プラセボの効果」という役割を果たしたのかもしれません。

 ともかく、赤城高原ホスピタル……周囲を自然に囲まれて、散歩をするにはよいところです。医師との距離の持ち方を割り切る必要と、自身の意志力が求められますが、「場所」として利用するというのも一つの方法かなと思います。