統合失調症予防センター……
 
ついにここまで来たという感じである。
 
これまでも「早期介入」について、本にもブログにもその意味(無意味さ)、倫理的な問題についてしばしば書いてきたが、ついに「予防」という文字を前面にしたセンターができたのだという。
 
以下の中日新聞のネットの記事。http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20150530/CK2015053002000097.html    
  

 統合失調症予防の施設 浜医大が全国初

  

 幻聴や妄想に悩まされる統合失調症は、十代後半から三十代前半に発症しやすく、遺伝する可能性も高いとされる。浜松医科大精神神経科(浜松市東区)は八月にも、遺伝の可能性がある未発症者を定期的に診断し予防や治療に役立てる全国初の「統合失調症予防センター」を立ち上げる。同科の森則夫教授は「未発症の近親者の発症因子を観察することで、予防プログラムの確立に努めたい」と話している。  

 統合失調症は、胎児の時期に遺伝子の塩基配列の変化やウイルス感染、母体への精神的ストレスなどが絡み合って発症因子ができる。発症因子は出生時には存在しているにもかかわらず、二十歳前後まで発症しないケースがほとんどで、発症の原因などは分かっていない。近親者に患者がいる場合、発症の確率は十倍高くなるという。

  

 センターは、両親や兄弟など二親等以内に患者を持つ未治療者を公募。脳内の異常を察知すると増殖するタンパク「ミクログリア」を陽電子放射断層撮影(PET)で計測し、血中内の分泌量も測定する。集中力や記憶力などの認知心理学検査も行って精神状態も把握する。発症の兆候を見つけるため、診断は半年ごとに繰り返す。本人と家族の了解が得られれば、抗精神病薬を使った臨床試験も実施する。  

 森教授は自閉症患者のミクログリアをPET計測し成果を挙げていたことから統合失調症にも応用。発症直後の患者の脳内ではミクログリアの70~80%が活性化していることを突き止めた。さらに動物実験で詳しく調べた結果、症状が現れるタイミングで活性化することが確認できたという。  

 森教授は「ミクログリアが活性化することで脳細胞の障害が進行し、それが一定のレベルに達すると幻聴や妄想が出現することが考えられる」と説明。未発症者から詳細なデータを集め、予防法や治療薬の開発につなげたいという。  

 大阪府立精神医療センターと共同で実施するが、未発症者の協力を得られやすくするため、そのほかの専門医療機関にも参加を呼び掛けている。

   

参考までに、ミクログリアとは、脳の免疫系を担うグリア細胞の一種である。以下、「日経サイエンス」の記事より。   

  

「血液中にある白血球は,体を病気から守る免疫系の代表的な細胞   である。しかし,脳には白血球が入らないようになっている。脳に侵入できるのは,病気やけがなどで血管が損傷したときだけで ある。白血球の代わりに脳内で免疫防御を担っているのが,グリア細胞の一種,ミクログリアである。

  

  ミクログリアは通常は突起を多数伸ばして周囲の細胞に接触し,   異常がないかを監視している。ニューロンに異常が起こると,形 を変え,ニューロンの修復を手助けするような成長因子を放出する。また,腫瘍細胞や細菌を殺すような分子も出す。さらには,   死んでしまったニューロンや他の脳細胞を貪食して,脳内を清掃 する役目もある。

  

  しかし,免疫細胞としてのミクログリアの働きは諸刃の剣でも ある。腫瘍細胞や細菌を殺すためのサイトカインやタンパク質分 解酵素,活性酸素類は時として,正常なニューロンを殺してしまうこともある。健康な人では,ミクログリアが必要以上に働きすぎないように,制御する機構が働いているらしい。しかし,アルツハイマー病やダウン症の患者では,この制御が効かずに,ミクログリアが暴走し,その結果ニューロンの死と痴呆という状況を   招いているようだ。

  

 さらに、「森教授は自閉症患者のミクログリアをPET計測し成果を挙げていた」とあるのは、2年前の次のような研究結果を指している。    

  自閉症の人は、脳内の免疫を担う働きをしているミクログリアという細胞が過剰に働いていることが分かったと、浜松医科大の研究チームが27日付の米医学専門誌電子版に発表した。原因がよく分かっていない自閉症の一端を明らかにする成果という。      

チームは、ミクログリアの働きを調べるために頭部専用の陽電子放射断層撮影(PET)装置を使って、薬物療法を受けていない18~30歳の自閉症の男性20人と、自閉症ではない男性20人を調べた。その結果、自閉症の人は、症状に関係するとされる小脳や脳幹などの部位のミクログリアが過剰に働いていることを見つけた。

  

 チームは、この現象はミクログリアの数が多いためと判断。数が多いのは、この細胞が脳内に定着する胎児の時期に増えたことが原因と推測している。

  


 こうした情報をそろえたうえで、今回の「統合失調症予防センター」の意味について考えてみたい。

まず、森教授は「ミクログリアが活性化することで脳細胞の障害が進行し、それが一定のレベルに達すると幻聴や妄想が出現することが考えられる」と説明し、そういう状態の人に抗精神病薬を投与するとしているが、この仮説が仮に正しいとして、では、ミクログリア増加に対して抗精神病薬が有効なのか……? そういう研究結果があるのか? という問題があるが、それについては触れていない。

そもそもの話、抗精神病薬に統合失調症の発症予防の作用があるのか……?

という問題もある。

 さらに、抗精神病薬を予防的にと称して、まだ「患者」となっていない未発症の人に投与しても倫理的に問題はないのか……? 

 自閉症の人はミクログリアが過剰に働いているというが、では同じミクログリア増加という状況のなかで、自閉症と統合失調症をどう見分けるのかという問題もある。

 自閉症の人は生まれつき過剰? 

 統合失調症の人は発症前に過剰になる?

 これはもう、机上の空論に限りなく近づく(ある意味、ご都合主義的解釈)。

 この森則夫という教授は以前もマイクロチップを脳内に埋め込んで精神病を治すなどと発言したことがあった。彼のやり方には常に、人体実験という言葉が付きまとう。

少し前は「早期介入」と称して、「声が聞こえたことがある」とか「テレビからメッセージが送られてきたことがある」とかいう質問をして子どもの未発症者を釣り上げようとしていたが、今回は、両親や兄弟など二親等以内に患者を持つ未治療者がターゲットである。

近親者に病者がいると発症率が高いと吹き込まれれれば、「予防できるものなら予防したい」と思うのが人の情というものだろう。というわけで、未治療者は公募され、集められ、いいように実験台となる。そして、病気でもないのに、抗精神病薬を試される。

予防、早期介入、というのなら、まずは精神科医に診断能力が十分にあるというのがそもそもの大前提であるはずだ。

現行の精神医療は、幻聴があればほぼ間違いなく統合失調症のエピソード(発症)というとらえ方である。それがどれほどの誤診、悲劇を生んできたか、精神医療はまったく学んでいない。

除外診断の何たるかを知らず、その程度の診断を行っている限り、「予防」と称して早期に当事者に介入する資格など、現行の精神医療にはない。

ご都合主義に塗り固められた研究結果を振りかざして、予防の正当性を主張する前に、これまで下してきた自身の診断の確かさを、胸に手を当てて振り返ってみるべきである。

きちんとした「正規」の診断さえできない者に、「予防」などできるわけがない。