昨年(2014年)10月より完全実施されていた「向精神薬の多剤併用処方による減算措置」について、結果検証に関わる特別調査が報告されているので、お知らせします。

 この問題については昨年3月に、当ブログでも取り上げました。

 http://ameblo.jp/momo-kako/entry-11789235227.html


 多剤処方を規制する目的で、抗精神病薬と抗うつ薬はそれぞれ4剤以上、抗不安薬と睡眠薬は3剤以上が減算対象ということになりました。

 つまり、抗精神病薬3剤、抗うつ薬3剤、抗不安薬2剤、睡眠薬2剤まではOKということです。


 この減算措置が実施され、では実際、現場での処方はどう変化したかが今回の調査報告というわけです。

 医療維新というサイトからの引用です。(読者の方に教えていただきました。)

https://www.m3.com/news/iryoishin/306214 (ただ、記事を読むには、読者登録の必要があるようです)。


 

 処方規制についての部分を引用します。


「精神病棟において、2013年と2014年の比較で、薬物療法において使用する向精神薬の使用数は若干減少しているものの、多剤投与の制限を目指した2014年度改定によってもさほど変化はない。


2014年度改定では、向精神薬の適正使用に向け、1回の処方において、3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬または4種類以上の抗精神病薬を投与した場合、(1)精神科継続外来支援・指導料は算定できない、(2)処方せん料、処方料、薬剤料は減額する措置が取られた。

例えば、外来患者の薬物療法において使用している向精神薬の使用数は、2013年は平均3.12から、2014年は平均3.02に微減向精神薬の種類別に見ると、減額措置の対象は、2013年は0.0%~1.4%、2014年でも0.11.3%で、もともと少ないことが分かる。


 よく読むと、矛盾した言い回しに気づくはずです。


 「多剤投与の制限を目指した2014年度改定によってもさほど変化はない。

 と書いていますが、多剤投与の制限を目指した改定が、上記のような薬の種類の多さなのです。

 つまり、改定そのものが「多剤投与を制限していない」ということです。その点「変化はない」ということは、裏を返せば、「相変わらず、多剤投与がなされている」と読むことさえできます。

 もう一点、減額措置の対象(つまり、抗精神病薬・抗うつ薬それぞれ4剤以上、抗不安薬、睡眠薬それぞれ3剤以上)は、改定前も改定後も、0~1.4%くらいで、もともと件数が少なかったと言っています。

それにしても、この数字は事実でしょうか? 私の知る限り、改定前に、睡眠薬3種類以上、抗不安薬3種類以上処方されていた人はワンサカいたという印象です。

 でも、「少ない」という。だとしたら、なぜ、減算措置まで講じて「多剤投与を制限」する必要があったのかということです。この改定自体無意味であるということを自ら白状してしまっているのです。

「減算をしなければならないほど、多剤併用処方には目に余るものがあった」・・・これがこの改定の当初の動機だったはずです。

それが、昨年の1月頃、この改定案に日本精神神経学会や日本精神科病院協会がごねにごねて、抗精神病薬、抗うつ薬3剤、抗不安薬、睡眠薬2剤という「多剤」を勝ち取ったのです。こうした成行きの矛盾の結果、こんなわけのわからない文章をこの記者に書かせてしまうこととなった。

さらに、開いた口が塞がらないとはこのことか、と思わせるような、日本精神科病院協会副会長の長瀬輝諠氏の言葉があります。記事を引用します。


「日本精神科病院協会副会長の長瀬輝諠氏は、2013年と2014年の比較で、向精神薬などの種類についてあまり変化していない現状について、「もともと適正に使用されていたということ」との解釈を示した。


「もともと適正に使用されていた」

 はあ~? という感じです。

 これが言いたくて、減算措置の薬の種類をここまで「多剤」にしたのでしょう。

 我々のやっていることに間違いはなかった。それを言いたいがための「改定」だったとも取れるような発言です。「適正」のレベルを自分たちで下げておいて、「適正」だったとは……まさに自作自演。

 もともと適正に使用されていた……ということは、現在の処方も過去の処方も「反省する必要はない」と言っているのと同じです。

 まあ、日本精神科病院協会ですから。会長の山崎學が2012年の巻頭言で以下のように豪語するところですから……


「……見学したロンドンの精神科病院の男子トイレで見た、薬の副作用で立っていられないで、額をトイレの壁に押し付けてよだれを垂らしながら用足しをしている患者さんの姿がいまも脳裏に焼き付いています。

 欧米の失敗の轍を踏まないように、精神科医療改革は時間をかけて慎重に進めるべきです。また、医療提供のバロメーターである、アクセス、コスト、アウトカムいずれをみても、日本の精神科医療は世界一だと思います。日本の精神科医療関係者は、日本の精神科医療を誇りと自信を持って世界に向かって情報発信するべきだと思います。」

 タイトルは「Japan as No.1


 見ている世界が違うというか、見えている現実が違うというか。こういう意識レベルである限り、改革などありえないわけです。だって、世界一ですから、改革の必要性はない。

 さらに、この会長は、以下のような文章も書いている。

 タイトルは「平均在院日数・多剤大量併用の嘘」

 https://www.nisseikyo.or.jp/opinion/kantougen/2541.html


 今回の調査(注、日本精神科病院協会独自の算出方法)で判明したことは、OECD基準に合わせたわが国における15歳から64歳までの平均在院日数は55.615歳未満では40.6日、65歳以上では76.0日)、統合失調症患者への処方実態は単剤処方率48.1230.4%、3剤以上12.9%であり、この結果は欧米諸国と比較しても遜色のない数字である。この調査結果について、本年(2013年)108日に予定されているWHOの精神医療関係者との会合で説明して、今後、WHOから日本の精神科医療に関する間違った情報が世界に向けて発信されることがないよう、注意を喚起したいと思っている。


 ちなみに、厚労省が出している数字は、平均在院日数は、平成20年度で、313日である。しかし、山崎氏は、これは算出の方法がOECD基準と違うので、こういう数字になっているが、その基準にそってカウントすれば、55.6日という、欧米諸国から批判されるような数字ではない、というのだ。

 日本の精神科医療は世界一、批判されている入院日数、多剤併用も、これまでの数字は「間違っていた」という見解である。

 もう、何をかいわんや。

 どこまでも、「自分たちは正しい」のである。