以前書いた『病院に殺された』という記事の中に登場する九州のある病院についての話題である。
内容は記事をお読みいただければと思うが、要するに、とても退院できるような状態にない患者を3か月という縛りの中で(それ以降は病院の収入が半分に激減するため)強制的に退院させてしまった。そのやり方の非道さについて書いた。結局、退院後、この患者さんは、自死してしまったのである。
この病院は「統合失調症の治療で単剤化率、ほぼ100%」ということでマスコミにも取り上げられている。住居施設を持ち、HPを見る限り、「患者の立場に立ったとてもよさそうな病院」という印象だ。院長は日本精神神経学会代議員などを務める精神医療界の「重鎮」である。
が、はたして、この病院の提供する「医療」の質はこうした社会的な評価やイメージに見合ったものかどうか?
私はこの自死された息子さんのお母さんと取材もかねて電話で数回話をしたことがある。この方は、それ以前ご主人にも先立たれ、ひたすら息子さんの面倒をみつづけてきた。あまりに無念の死。病院の横暴なやり方。精神医療の理不尽さ。しかし、これらを訴えるところさえない。
それでせめてブログの記事にすることで、多少なりともお母さんの口惜しさ、辛さ、孤独な思いをみなさんに知ってもらえればと思ったわけだった。お母さんはパソコンができないのでブログを見ることができなかったため、書いた記事と皆さんから寄せられたコメントをコピーして郵送した。お母さんはそれを息子さんの仏前に供えたと言っていた。また、その後お礼にと、お菓子の詰め合わせを送ってくれたりもした。
息子さんが亡くなったのが2年前である。そして、今年、その命日の少し前のことだった。お母さんから「もう生きていても仕方がない」といったメールが届いた。取材のときも同じように、生きる希望がないと言っていたが、今回は少し様子が違うような気がした。
電話をしたり、メールを送ったりした。他にも支えてくれる人が近くにいたのだが、結局、息子さんの2回目の命日の朝、予告したとおりお母さんは自らの命を絶った。53歳だった。
前日も電話で話したが、どうにも引き止めることができなかった。
精神科病院のむごい「医療」は、こうして当事者だけでなく、家族までをも犠牲にする。お母さんもまさに「病院に殺された」ようなものだった。
しかし、この病院、医師たちは、こうした事実を知る由もないだろうし、知ったとして、何の痛痒も感じはしないだろう。
「の〇え病院」批判相次ぐ
息子さんの自死を告げるこの記事をきっかけに、この病院の話がいくつか寄せられるようになった。
一つは、エントリのコメント欄にも投稿されたものである。そのまま引用する。
「私も3年程前に「の〇え」のS口という医師へ家族に半強制的に連れて行かれました。初めて行ったその日に大した時間もかけずに統合失調症と診断され、次の週にほぼ無理やり入院させられ酷い目にあわされました。
院内は一見普通なのですが、具体的には説明できませんが、何か異常な雰囲気でしたね。
デイケアなどもひと通りみましたが、治療と言うよりは、患者を上手くコントロールして飼い殺しにし、医療報酬を絞り続けるシステムと言った感想です。
S口医師も信用が出来なかったので、外泊の際に病院に戻ることを拒否したところ、家族ぐるみで私をだまし、病院へ連れ戻され、保護観察室へ。
話が通じないようなので、言うことを聞くふりをして何とか退院し、実家近くのクリニックに逃げました。
結果、どうも発達障害らしく、二次障害の抑うつ感、無気力、感情の平板化を統合失調症の陰性症状とこじつけられていたようです。また、いろいろ調べてACでもあるらしい事が分かりました。
統合失調症の陽性症状が全く無かった私はようやく腑に落ちたとともに、「の〇え」のS口医師の誤診、もしくは意図的な統合失調症の診断とその後の処置に憤っている次第です。命は失ってはいませんが、社会的に殺されたも同然です。」
その後、この人とは数度のメール交換をして、「の〇え病院」の実態について伝えてもらった。それによると、主治医のこのS口医師は、退院後は一人暮らしをさせるという約束をしていたにもかかわらず、実際には退院後病院の経営するグループホームへの入居を持ち出してきた。そうした事実からも、この病院は、どうも患者を取り込むことに熱心なような印象を受けた。
この病院の中心に患者はいない
また、別の人からは非常に丹念な調査による(この病院の患者だった人たちへの聴取、またご本人も当事者として)『の〇え病院報告書』とでもいえるものを送ってくれた。その中で、医師について、(あくまで患者さんの個人の主観と断ったうえで)、次のように書いている。
「院長:診察室に入った瞬間に体調が分かる。その段階で処方箋は決まっている。診察の時にあまり話をしないので不信感を持つ患者も。入院の理由を説明しない。私生活は女性にだらしない。
副医院長:依存症に執着。「私は何でも知っているわ」という態度で患者に接する。気分の波があり、診察後に同席したスタッフから「あの人の話は半分だけ聞いて」とフォローされるケースも。
S口先生:元々、どこかの施設長を勤めていて「の〇え」へ。社会的な問題を起こした患者の対応をよく行われるらしいのですが、「治ろうと思わない人はどうしようもない」と割り切ったところと、高齢のためか古い抗精神病薬を強めに投与する傾向あり。副作用で手が震えていても我慢するようにいい、減薬したり副作用止めを出さない場合も。ともすれば、S口先生のおかげで社会的に復活できたと感謝している患者さんもいるとか。」
世間の評判やきれいごとを並べるHPからはうかがい知れない内情が、実際患者さんから聞いた話として、詳細に書かれているこのレポートは興味深い。
中でもこの人の感想としてつづられた文章の中で、私には次のような言葉が心に残った。
「たとえば、「韓国の精神病院と提携を結び交流を行う」等の華々しい話を発信しつつ、実は「この病院の中心に『患者』はいない」のです」
患者不在の華々しい医療……とはいったい何なのだろう? そして、その陰で、記述のような「被害」が出ている現実。
何ともやりきれない気持ちになる。
麻酔科医不在?
さらに、もう一つの報告がある。
電気ショックについて、以下のようなメールが届いている。
「初めまして。統合失調症の娘を持つ母です。
私の息子は「の〇え病院」に通院しています。状態はあまり良くなくて、電気治療を何度か受けてきました。そして、一昨年くらいから、看護婦さんから新しい電気治療(注・麻酔と筋弛緩剤を使うm-ECT)になったと説明されました。麻酔科の先生が来て麻酔をかけてから電気を流すので、昔よりも安全で効果が大きいと。しかし、その分料金も高いと言われました。それからはその新しい電気治療を受けているのですが、娘の話によると、いつも麻酔科の先生はいなくて、精神科の先生だけしかいないと言っていました。麻酔をかけるのも精神科の先生だったと言っていました。おかしいと思って麻酔科の先生に会わせてほしいと頼みましたが、駄目と言われました。しつこく頼んでも「お母さんがクレーマーだと娘さんが可哀そうですよ」って笑われるだけ。
精神科に詳しい友人に聞いたら、新しい電気治療はとても儲かるんだそうです。でもどこの病院も麻酔科の先生を雇えないからやっていなくて。でも娘の通う病院は麻酔科の先生がいないのにそれをしています。そして不正が見つかりそうになるとクレーマー扱い。こういったことがまかり通る現実が悔しいです」
麻酔科の医師が麻酔を管理すると言いながら、実際には精神科医がECTの麻酔を行っている。これがもう一つのこの病院の実態だ。