体験談が届いていますが、今回は、先日の茶話会で、実家が薬局を営んでいるという方から、興味深い雑誌をいただいたので、紹介します。

 薬局・薬剤師のためのスキルアップ&マネジメント情報誌『日経ドラッグインフォメーション』

 2013年2月号で次のような特集が組まれている。

「今こそ薬局で取り組もう うつ病患者のケア」

 こうした専門雑誌は、業界内の「本音」が書かれているので面白い。この雑誌も、見事に期待に応えてくれました。

 信頼関係を築くための服薬指導7つのポイント、である。

 患者がこういうことを言ってきたら、薬剤師としてどう答えたらいいかのアドバイスというわけだ。7つのコミュニケションスキルとやらを挙げてみます。


 

1 精神科領域の薬では、服薬への不安や抵抗感を持つ患者が多いので、「抗うつ薬」と明言しないほうがいいというのである。

つまり、「抗うつ薬」とストレートに伝えることを避けて、例えば「不安や緊張を取る薬」など効果を中心に説明する。あるいは、「今のあなたのつらい症状を改善するための薬です」という説明も推奨されている。

さらに、その日の症状によって薬を勝手に増減する患者が多いことから、「つらい症状を取るには、医師の指示通りにきちんと飲むことが、とても大切なことです」と念を押すこと。


抗うつ薬ときちんと伝えないほうがいい……さすが専門誌である。それにしても、患者は服薬コンプライアンスを言われるが、インフォームドコンセントはどうなっているのか? ま、そんなことはどうでもいいのである。薬剤師としての役割は、嘘をついてでもうつ病患者に「抗うつ薬」を飲ませることなのだ。


2 副作用をどう伝えるか。

 副作用を伝えるときは、ネガティブな情報だけでなく、ポジティブな言葉で締めくくるようにする。例えば、抗うつ薬の副作用としてつきものの吐き気について、「服薬初期に、胃がむかむかすることがあるかもしれません」とだけ伝えると、服薬を不安がらせるので、こんなふうに伝えましょう。

「飲み始めにはむかむかすることがあるかもしれませんが、それは心配な反応ではなく、しばらく飲み続けると治まるので、服薬を続けてくださいね」

 つまり、副作用を訴えても、無駄であるということだ。ま、そもそも薬剤師に訴えても、どうにかしてくれるわけではないけれど。(医師に掛け合ってなんか絶対にくれない)。


3 服薬中は、飲酒はしない。

 これを伝えるのは当然である。向精神薬とアルコールの併用はとても危険。

 しかし、医師からも薬剤師からも、この注意を受けたことのない人(したがって、服薬中もアルコールをかなりの量、飲んでいたという人)もわりにいる。


4 「いつまで薬が必要?」の質問に、どう対応すればいいか。

 そのときは、時期を具体的に示すのではなく、医師に相談するように促し、医師が薬をやめてもいいと判断するまで、決められた量をきっちり服用することが徹底できるよう働きかけること。

 医師から薬を減らしていきましょうなどと提案してくれることはほとんどないので、患者は延々と薬を、「決められた量をきっちり服用する」ことになる。そして、薬剤師は黙ってそれを見ているだけの人ということだ。


5 患者がいろいろ質問をしてきたら(今後、私はどうなるのか? 将来どうしたらいいのか?等)、指示は控えて、医師に相談するように促すこと。

 薬剤師に求められているのは、不安な気持ちがあれば、主治医に伝えるように患者に提案することらしい。「医師には言いづらい」という患者には「勇気を出して言ってみませんか」と背中を押してあげる。

 何を言っても「主治医に相談してください」では、どうしようもない。結局、治療のヒエラルキーの頂点にいるのは「医師」であり、薬剤師の存在感はほとんど「ない」に等しいと自らが認めているということだ。


6 「死にたい」の訴えには……。

 ねぎらって、傾聴する。

 そして、最終的には、「しかるべき専門家」につなげることである。

 まだ精神科を受診していない患者なら、精神科や、精神保健福祉センターを紹介する。すでに精神科にかかっている場合は、「そのつらいお気持ちを先生にお伝えしましたか」と聞き、主治医に相談するように促す

「主治医に相談」が3回目。結局、薬剤師には何の権限もないということか。

しかし、主治医に「死にたい」など漏らしたら、とんでもない薬を処方されるか、入院させられる可能性だってある。


7 「薬剤師はアンカー なんでも相談できる存在に」

 「あなたのことを気にかけていますよ」

しかし、気にかけてもらっても、こんなふうに、結局、騙されて薬を出されたり、副作用を訴えても、我慢して飲めと言われたり、何かを言っても、主治医に差し戻されるだけでは、患者として薬剤師を頼りにできる存在とはとても思えないのである。


 精神科医は薬のことを知らず、専門家であるはずの薬剤師に伝えても、医師の指示通りに、医師に相談してください――これでは患者は、結局、薬についてほとんど何も知らない医師の言うとおりに(誤処方の)薬を飲まされ続けることになるだけだ。

 薬剤師としての自立した職能はどこにあるのか。


薬剤師法

 (処方せん中の疑義)

第二十四条  薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。

(情報の提供)

第二十五条の二  薬剤師は、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、調剤した薬剤の適正な使用のために必要な情報を提供しなければならない。


医薬分業(ウィキペディアから)

この制度の発祥の地である西洋では、国王などの権力者などが、陰謀に加担する医師によって毒殺されることを防ぐために、病気を診察するあるいは死亡診断書を書く者(医師)と薬を厳しく管理する者(薬剤師)をわけていたことに由来する。

医師と薬剤師の役割をわけることで、不適切薬を排除、過剰投薬等を抑制、二重チェック等の実施で薬物治療が社会と個人にとってより有益になるようにしたのがこの医薬分業の仕組みである。

医薬分業制度により、欧州の薬剤師は、医薬品の独占的な販売権や調剤権を国家から認められることと引き換えに、

いつでも、どこでも必要な薬を安定的に国民に供給する責任。

薬の副作用、相互作用、過剰投与などの危険から国民を保護。

薬についての完全な把握。

薬の厳格な管理。

よりよい薬の研究、開発、製造。

にせ薬の排除。

規格書(薬局方)の作成と開示。

価格の不当な高騰の抑制。

などの役割を果たしてきた。

 

 しかし、日本の場合、こうした欧州の本来的な医薬分業制度の普及にはまだ程遠い現状である。

いや、医薬分業はないに等しい。