トークショーの内容公開についてはもう少しお時間をいただくことにして、今回はある事例を皆さんにも一緒に考えてもらおうと思います。
16歳の息子さんです。
小さい頃からおとなしい性格で、学校の成績も平均的。少し言葉の遅れがあり、場面緘黙的な特徴もありましたが、小学校中学校と何とか無事に過ごしてきました。
小学校5年生のとき、学校の先生から広汎性発達障害を指摘され、ある大学病院の「発達外来」で診てもらったことがありましたが、そのときは特に問題はないとのことでした。
中学を卒業し、去年の4月、ギリギリといった感じである進学校に入学したのですが、毎日出されるたくさんの宿題、課題の提出、厳しい校則……さらに、本人が言っていることですが、学校でのいじめもあったとかで、そうしたことがストレスとなったのか、少しおかしな行動をとるようになりました。
周囲の音が異様に気になるようで、常時耳栓をしている、外出をひどく嫌がる。当然、学校へも行きたがらず、それでも親御さんは、「頑張れ」と励まして、学校に行かせていました。
そうしたところ、ある日、突然クラスメートにつかみかかったり、蹴ったりしてしまい、学校から精神科の受診を勧められました。仕方なく一度だけ受診したところ、統合失調症の診断が出たとのことです。
「早く薬を飲まないと手遅れになる」と医師から言われたそうですが、親御さんは薬に対して警戒する気持ちがあり、薬を飲ませたくない。しかし、学校からは「治療をしない限り、復学は無理」と言い渡されました。
しばらく様子を見ましたが、結局、治療はしないまま、学校はやめて、現在は家に引きこもりの状態です。
しかし、突然怒り出したり、外に飛び出したり、隣の人が自分の悪口を言っていると言いだしたり……。
市の相談窓口に相談をしたところ、ここでもやはり「精神科に行って、薬を飲ませてほしい」というようなことを言われました。薬は飲ませたくないが、上記のような「症状」がある……これはやはり薬で対処しないとどうしようもないのではと悩んでいるということです。
親御さんとしては、まず、息子さんが本当に統合失調症なのかどうかという不安があり、薬を飲まないと本当に手遅れになってしまうのかという不安があり、しかし、薬を飲ませることに対する不安もあり、しかし、現実には「統合失調症のような」症状もあり、放置しておくのも不安、ということです。
このケースは、まさに学校が介入した「早期介入」そのものの例です。
面倒な生徒の排除、手のかかる生徒の排除、本来の目的であるそのことを成すために、精神医療を利用しているのです。
さらに、治療を受けないなら、学校に来てはいけない……とは。こういうやり方のどこに「教育」の精神があるのかと思います。
しかし、いくら文句を言っても、現実は、すでに学校はこういう方向に舵を切ってしまっています。ちょっとした「異変」が生徒に見られれば、すぐに「精神科」の登場です。そして、薬を飲んでほしい、飲まないなら学校に来るな、薬を飲まないと病気がどんどん悪くなる――どこに行っても、誰に聞いても、そういうことを親は言われるわけです。これはたまったものではない。医療へ、医療へ、薬を飲め飲め……これに抗うことがいかにたいへんなことか。
こんなふうに、学校の対応、病気の解釈、社会の薬への依存といったことから、がんじがらめの状況に追い込まれる親御さんたちは非常に多いのではないでしょうか。
幸い、この親御さんは登校と引き換えに精神科の治療を選びませんでしたが、それでも目の前の「症状」を見ると不安になります。周囲の人がみんなそう言うから余計です。
こういう状況のとき、親としてどうすればいいのでしょう。子どもの出している「症状」をどう受け止めればいいのか。やはり薬はちょっとは必要なのか。そもそも統合失調症なのか。もしそうでないとしたら、どう考えればいいのか?
正解などないかもしれませんが、よりよい選択にはどのようなものがあるのか、皆さんのお考えを聞かせていただければと思います。