うつ病患者323万人――というか、うつ病と「診断」され人が323万人いるということで、日本では抗うつ薬市場はまだまだ活況を呈しているのだろう。
持田製薬と田辺三菱製薬は2011年7月21日付プレスリリースで、新たな抗うつ薬(SSRI)である「レクサプロ」(エスシタロプラム)(10mg)を8月22日より発売すると発表している。
これまで日本ではフルボキサミン(デプロメール・ルボックス)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)の3成分、4商品がSSRIとして発売されていたが、レクサプロが加わって、4成分、5商品が出回ることになる。
レクサプロは、発売元の持田製薬によると、デンマークのルンドベック社が作った薬で、2002年に製品名『Cipralex/Lexapro』として欧米で発売されて以来、現在では世界90 ヵ国以上で販売されているらしい。
この薬は、既存のSSRIに比べてセロトニン再取り込み阻害の選択性が高く、ノルアドレナリンやドーパミンの再取り込み阻害作用が相対的に弱いものと考えられている。つまり、そのぶん、副作用(ノルアドレナリンの再取り込み阻害に基づく低血圧、頻脈、振戦、睡眠障害などやドーパミン再取り込み阻害に基づく鎮静、悪心、低血圧など)が軽減できる、というのがこの薬の売りのようだ。
にもかかわらず、承認時までの国内臨床試験(大うつ病性障害患者を対象とした4試験)では、74.4%に臨床検査値異常を含めた副作用が報告されているのである。
主な副作用は、悪心(23.8%)、傾眠(23.5%)、頭痛(10.2%)などであり、重大な副作用としては、痙攣、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、セロトニン症候群が報告されている。
http://www.mochida.co.jp/dis/medicaldomain/psychiatry/lexapro/info/point.html
なぜ新たなSSRIの発売なのか?
つい先日、厚生労働省は、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病の「4大疾病」に、新たに精神疾患を追加して「5大疾病」とする方針を決めているが、このレクサプロは、そうした流れにうまく乗るかのようなタイミングでの発売だ。
が、それにしても、副作用が軽減できるという売りの薬の副作用発現率が74.4%というのは、どう考えればいいのだろう。(正直、理解に苦しむ)。
抗うつ薬については、これまでもその開発段階での治験の不透明さや、「軽・中程度のうつに抗うつ薬は効果がない」という研究などにも言及してきた。
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2356414/2684300
そもそもうつ病に対する正しい診断はなされているのか。
除外診断を一切行わず、精神科を受診すれば問診で即「うつ病」と診断され、即抗うつ薬が処方される。
確かに、抗うつ薬で効果のある人もいることはいる。しかし、それが100人中1人の割合で、残りの99人に、多くの副作用の危険性のある抗うつ薬を、いとも簡単に処方して、結果医原病を作っているのが現実なのだ。
レクサプロはうつ病治療の新たな選択肢を広げるとうたわれているが、裏を返せば、安易な投薬の選択肢を広げるだけの可能性も大いにある。
副作用発現率にしても、これまでのSSRIとほとんど変わらず、ということは、日本におけるうつ病治療(薬物てんこ盛り)を見越した思想しかないように思われる。
持田製薬のHPには、以下の文章がある。
「「レクサプロ®錠10mg」の予想売上高につきましては、持田製薬と田辺三菱製薬の合計額で初年度約30億円、ピーク時(発売後6年度)約338億円を見込んでおります。」
1錠が212円ということである。つまり、初年度だけで1400万錠以上を売ろうという目論見である。(計算が正しければ……)。これから1400万錠以上が日本にばらまかれるということである。
元々抗うつ薬は、1950年代、抗ヒスタミン剤として開発された「イミプラミン」に抗うつ作用がある(らしい)ということが偶然発見され、「セロトニン(モノアミン)仮説」の元、三環系→四環系→SSRI→SNRI→NaSSaと開発が進んできた。
しかし、SSRIなど「セロトニン仮説」に基づく抗うつ薬 の開発は世界的にはすでに終了している。
要するに、そうした薬の効果の薄さや、それどころか副作用など裁判沙汰による和解金の支払いがかさんだりして、抗うつ薬は製薬会社にとって「うまみ」がなくなっている。
「光の旅人」さんのブログに詳しいが、
http://schizophrenia725.blog2.fc2.com/blog-entry-130.html
アメリカ国民は、「プロザック(SSRI、日本では未承認)」時代の精神薬に対して不信感(不正な科学による治験、精神科医と製薬会社の癒着など)と警戒感を抱きはじめている。つまり、アメリカにおいては、「新世代のワンダードラッグ」を売ろうにも、もはやプロザック時代の薬を売るのに使った同じマーケティング手法では通用しなくなっている。そのため、多くの薬品企業が、精神科の新薬開発にそそぐ力を劇的に縮小 させているという。
そうした世界的な流れのなかで、日本において、新たなSSRIの発売である。
日本では、精神薬への不信感、警戒感を抱く人はまだ少数である。(それどころか、こうした精神薬の問題があることさえ知らない人がほとんどだ)。
つまり、日本の抗うつ薬市場はまだまだ健在というわけだ。(なんといっても、8月に発売するレクサプロは、その初年度に1400万錠以上が売れると見込まれているくらいである)。
いや、抗うつ薬に限らず、ベンゾジアゼピンにしても、他の精神薬にしても、何も知らない(知らされていない)日本国民は、世界中でだぶついた精神薬の消費者として、世界中の製薬会社から大いに有難がられる存在なのかもしれない。