ある読者の方から寄せていただいた情報を取り上げます。

まずは、先月9月14日の京都新聞の記事。




半数が服薬中断、8割で再発 統合失調症患者

NPOが調査 副作用苦しく自己判断

 アンケート調査(9000部を配布)を行ったのはNPO法人地域精神保健福祉機構(コンボ、千葉県市川市 0473203870)で、統合失調症の患者710人(大半が通院中)、家族689人が回答を寄せた。それによると、

処方された薬を自分の判断でやめた患者は48%

統合失調症の服薬を止めたか、止めようと思った理由(複数回答あり)

副作用が気になり、辛かった50.8% 

・薬に頼らず自分で治したいと思った36.7% 

・薬を飲むことに納得していなかった31.7%

統合失調症の薬は、体のだるさ、体重増加、日中の眠気、口やのどの渇きなど複数の副作用を伴いがちで、患者を苦しめる。患者の7割は主治医に「薬を変えてほしい」と求めたことがあったという。

 分析した伊藤順一郎・国立精神・神経研究センター精神保健研究所部長は、「薬をやめた人は病気や治療、薬への理解、納得が低い傾向」と論評している。

 また、

服薬を中断しなかった理由
・薬を飲むことで再発を予防できると思った64.1%

・主治医の指示通り飲まなければ病気は良くならないと思った62.0%

・薬の効果を実感した 48.7% 


そして、中断後の再発は患者、家族の回答とも、8割に上がった。回答しなかった患者も含めると、服薬中断後の再発率はもっと高い可能性がある。服薬中断で再発率が急に高まり、再発を繰り返せば回復が遅れることは内外の研究で確かめられている、と記事にはある。


また記事では多剤大量処方の問題も取り上げている。

調査によると、治療のために服用している薬の数は平均4・3剤。うち抗精神病薬は1・7剤である。以前より減ったが、抗精神病薬のほか、抗不安薬や睡眠薬など多剤大量処方が今も残っていることを示した。



 この記事だけを読むと、「やはり統合失調症の薬は生涯飲み続けなければならないのだ」「薬を止めると再発してしまうのだ」と考える人が多いだろう。もちろん記事もそういう流れで書かれているし、コンボの調査もそうした結果が出ることを予想した上での調査だったのかもしれない。



薬の量が多ければ多いほど再発する

 しかし、こうした解釈に真っ向から対する調査結果がある。

 詳しくは http://schizophrenia725.blog2.fc2.com/blog-entry-89.html

(「光の旅人」 隠された論文、統合失調症編)を読んでください。(ブログ管理者の方へ・・問題であればすぐに外します)



 結論だけいえば、

抗精神病薬の服薬中止前の量が多ければ多いほど再発率は高くなる、

というのだ。(統合失調症患者301名を24週にわたっての調査)


概略:研究開始時点においてプラセボを投与されていた患者30人のうち24週中に悪化したのはわずかに2人(7%)。研究開始時点に300 mgを超えない範囲でクロルプロマジンを服用していた患者99人のうち、投薬中止後に再発した患者は23%。300 mg から 500 mg の間で服用していた患者91人のうち52%が再発。500 mg 以上のクロルプロマジンを服用していた患者81人のうち再発したのは65%。研究者は、「再発は患者がプラセボを投与される前に服用していた精神安定剤の量と有意に関連する-量が多ければ多いほど再発の可能性が高い」と結論。 (p.22とp.23 参照)

 つまり、日本で現在行われているような多剤治療(このアンケート結果でも、抗精神病薬は単剤ではなく平均でも1.7剤である)の場合、薬を止めた場合、再発率はその分高くなるということで、調査結果の「再発8割」を裏付けている。



 しかし、アンケート結果の解釈では、「薬を止めたから再発した」としているが、この研究において、それがいかに「間違った考え方」であるかを研究の結果、結論付けているのだ。


 再発の理由として、『神経遮断薬の投薬後に起きるドーパミン作動性の過敏性』 Muller, P. Psychopharmacology 60 (1978):1-11  を挙げている。

 研究者であるチュイナードとジョーンズによると

「薬剤がドーパミン活性を抑制することで、脳はそれを補おうとドーパミンに対して"過感受"になる。特にドーパミン受容体密度の増加を薬剤が誘発している。ドーパミン機能の擾乱は長期的には患者が生物学的に精神病を起こしやすくなり、薬の投与中止で悪化して再発する。神経遮断薬は、運動障害および精神病症状そのどちらをも引き起こすドーパミン過敏性を起こしうる。そのような過敏性を発現した患者が精神病を再発しやすいのは、単に精神疾患の自然の成り行きで決まるものではなさそうである」

 要するに、薬によってドーパミン過敏性を起こしている脳は、投薬中止によって制御を失い、その結果として病状悪化、再発という状態に陥るということだ。

 つまり、悪いのは病気よりもその治療薬? というわけである。




薬を飲まない方が回復する

 しかも、この研究では、薬を飲まない方が統合失調症の回復率は高いとしている。


マーチン・ハロウの15転帰の結果研究

概略:米国国立精神保健研究所の資金提供により行われた統合失調症患者の長期転帰に関する追跡調査。1980年代後半にシカゴ地区にある2つの病院で統合失調症の診断を受けた患者を対象に行われたこの研究では、15年で抗精神病薬の服用をやめていた患者の40%が回復していたのに対し、服用を続けていた患者では5%であった。統合失調症以外の精神障害のあった患者も抗精神病薬の服用を続けていた患者よりも服用をやめていた患者のほうが状態ははるかに良かったと報告している。


 さらにダメ押しの結論である。

 バーモントの経時的研究

概略:1950年代から1960年代の初めにかけてバーモント州立病院に入院していた統合失調症患者の転帰を調査した長期研究。20年後、25%から50%の患者が完全に薬剤を断ちながら統合失調症の症状もその兆候も見られず正常な生活を送っていたことを報告。統合失調症の患者は生涯薬を飲み続けなければならないというのは「作り話」であり、現実には「生涯薬を必要とするのはごく少数であろう」


つまり、

 統合失調症の薬は生涯飲み続けるべきもの、は嘘。

薬を中断したから再発した(ある意味ではそうだが)、は嘘。

要は、「薬を飲み続けたから、中断をしたのち再発した」のである。



 また、再発とは直接的な関係はないかもしれないが、ナンシー・C・アンドリーセンの研究では、統合失調症の薬が脳を確実に破壊するということが、その画像という確かなエビデンスと共に確認されている。

http://schizophrenia725.blog2.fc2.com/blog-entry-50.html

 抗精神病薬によって1年で1%、脳が委縮し続けたら、人間はどうなるか?

このことも、統合失調症の薬物治療において、ほとんど知られていない事実である。


 新聞記事では「再発を何とか避けたいという思いは患者や家族、医師に共通する」と書かれているが、向かう方向が違うような気がしてならない。

 なんといっても記事の結論がこうなのだから。

調査結果について奈良県在住のコンボ会員で統合失調症歴20年の井上和哉さんは「納得して治療を受けていない人が多いのに驚いた。医師や薬剤師が薬についてきちんと説明すれば患者は理解できる

 治療=薬物投与

 症状を抑えるには薬を飲み続ける必要がある。

 いつまでこうした方針で精神医療を進めていくつもりなのだろう。治せないのではなく、治さない治療をいつまで続けるつもりなのだろう。
上記のような海外の論文は、あえて無視して、いったい誰が得をするのだろう。