先日発売された『婦人公論』(2010年7月7日号)に「家族をうつから救え!」という特集が組まれていた。表紙は久しぶりに登場した矢田亜希子だ。(元ダンナのことを思うと、薬つながりとも言えるわけだが)。


 その中で、相も変わらずといった感じだが、防衛医科大学校精神科教授(日本うつ病学会理事長の肩書ではなく、なぜかこっちを選択)の野村総一郎氏が登場していた。

 氏は、うつ病についての簡単な解説と家族がどう対応すればいいのか注意点を挙げたあと、薬について以下のように述べている。

「……うつ病の薬の有効率は6割くらいで、約4割の患者さんは薬だけでは治りません。そのため心理療法などほかの治療法を加える必要がありますが、薬物治療が大事だという事実に変わりはありません。……

大うつ病の場合、脳内の神経伝達物質の働きをよくする効果のある抗うつ剤、SSRISNRIのどちらかを最初に処方するのが一般的で、効果が薄い場合は別の薬に替えるか、ほかの薬を組み合わせます。ともに副作用は比較的少ないのですが、飲み始めに吐き気を感じる場合が多いようです。また効果が表れるまでにある程度時間がかかりますし、逆に症状が治まってからもしばらく飲み続けないと再発や重症化の危険があります。それゆえ患者さんが自己判断で服用をやめたり量を減らしたりしないよう気をつけてほしいのです。」

「大うつ病の場合」という言葉をすっともぐりこませるように使っているところが、何となく言いわけがましい感じだが、一般読者はそんなことには気づきもせず、前ページに掲載されている「うつ病診断テスト」――こんな様子が見受けられたらうつ病の可能性が――というひどく簡単なチェックリストで判断することだろう。

そして「当てはまる項目が多ければ、医師に相談してみましょう」とあるから、

13項目中、多いとはいったいいくつあれば多いと判断するのか、数字を明示しないのはなぜ? もしかしたら、女性誌だからこれくらいの軽い表現でいいと編集長が判断したのか、野村氏の指示なのか、私も以前女性誌の仕事をやっていた経験があるので、何となくそのへんの空気が読める)。

ちょっとでも気になったら、「私もうつ病かも」「家族のだれそれは、うつ病じゃないか」ということになり、精神科を受診する(させる)ことになるだろう。


そして、当然のことながら薬が処方される。日本うつ病学会の理事長が「薬は必要」と太鼓判を押しているのだから、患者も薬を当然のものと思うだろうし、精神科医だって「うつ病を治療するため」、「患者のために」正々堂々と薬を出す。

うつ病になるくらいの人は真面目な人が多い。だから、真面目に、病気を治すために出された薬をきちんと言われた通りにかかさず飲む。


 それが人生の分かれ道であることもあるのだ。

「あのとき、精神科に行かなければ」「処方された薬を飲まなければ」

そう後悔する人を私は何人も知っている。(それ以上にネットで検索すれば、そういうブログがいっぱいあるではないか)。

この記事を読んで、まだ、こんなことをやっているのか。それが正直な感想だ。

手を変え、品を変え、発言する場を変えて、なぜ、これほどまでに国民に向精神薬を飲ませたがるのだろう。

うつ病がいま流行りだからか(病気が流行っているということではなく、それを取り上げることがトレンドという意味で)。


しかも、野村氏はこの記事で完全な嘘をついている。

「副作用は比較的少ない」――って本当ですか???

それならなぜ、現に副作用に苦しみ、さらに異常を感じて薬を断つ際の離脱症状に苦しむ人がこんなにも多いのだろう?


 いくら女性誌だからといって、いい加減なことは言わないでほしい。

 ちなみにSSRIの一つ、パキシルの添付文書を見てみるといい。これを前にしてもなお野村氏は「副作用は比較的少ない」と主張するのだろうか。

【警告】

海外で実施した7~18歳の大うつ病性障害患者を対象と

したプラセボ対照試験において有効性が確認できなかっ

たとの報告、また、自殺に関するリスクが増加するとの

報告もあるので、本剤を18歳未満の大うつ病性障害患者

に投与する際には適応を慎重に検討すること。(「効能・

効果に関連する使用上の注意」、「慎重投与」、「重要な基

本的注意」及び「小児等への投与」の項参照)

 

 冒頭に、このような赤字で警告されている。18歳未満を対象にした警告だが、18歳未満にこれだけ危険な薬である。成人にとっても決して「副作用は比較的少ない」薬とは言えないはずだ。

 しかも、この添付文書を最後まで読んでみると、副作用はじつに94個も明記され、「自殺」という言葉は23回出てくる。

医師は薬の副作用についてきちんと説明しなくてはいけない。いくら雑誌の、たった一行の記事だとしても、嘘を言っては絶対にいけないのだ。

 しかも、「効果が薄い場合は……ほかの薬を組み合わせます」とあるが、これはいま問題になって多剤大量処方を氏自らが認め、奨励し、患者側にもその処方を受け入れるよう迫るものではないだろうか。抗うつ剤は単剤処方が基本のはずである。

 さらに「症状が治まってからもしばらく飲み続けないと再発や重症化の危険がある」などと恐怖をあおる。
 しかし、善良な『婦人公論』の読者のことだから、日本うつ病学会理事長のありがたいお言葉を真に受けて、精神科を受診する(家族を受診させる)人が大勢出るかもしれない。

 うつ病について、薬について、一般の国民は無知といってもいい。

 知らないことは恐ろしいことだ。そして、間違った情報を信じさせられることはもっと恐ろしいことだ。

 自分の身は自分で守る。

 だから、この手のうつ病治療に関する情報は、徹底的に疑ったほうがいい。