刺繍を初めて目にしたのは小学校入学時に母が作ってくれたツーピースのジャケット。
そのポケットに施された薔薇の花の刺繍です。
赤い大きな薔薇と隣に小さめのピンクの薔薇の刺繍。
オーダー服を作っていた母ですが刺繍はその時が初めてだったはず。
私のために慣れない刺繍を一生懸命に刺してくれたのです。
とても綺麗にサテンステッチされていました。
まだ幼かったけれどその時の記憶は鮮明で、刺繍の薔薇がとても嬉しくて何度も見ては触っていたことを覚えています。
母が作ってくれた"刺繍が施された特別な服"、それが初めての刺繍との出会いでした。
その後は刺繍を特に意識することはあまりなかったのかもしれません。
でも刺繍が入った物を見つけると見入っていたような。
刺繍ってなぜか心が魅かれるものですね。
それからずいぶんと月日は流れ、娘が刺繍しているのを見て自分もやってみたくなり、刺繍講師資格取得コースを受けました。
その時は刺繍講師を目指したのでなく、ただ綺麗に刺せるようになりたかったのと娘と刺繍の話ができたらいいなという軽い気持ちからでした。
講師資格コースでは様々な刺繍を一から教えていただきました。
クロスステッチからフランス刺繍、ビーズ、ハーダンガー、ドロンワーク、アジュール、スモッキング刺繍etc...
いろいろな刺繍方法を学べたこと、それに根気強くなったことが一番の収穫でした(笑)
きれいに刺せるようになるまでは刺しては解くの繰り返しで失敗することは日常茶飯事。
まるで修行みたいです。
刺したものを解き、また刺し直すのは結構大変で根気が要ります。
でもやり直したことでよりよいものができることがわかると、「失敗してもまたやり直せばいい」って単純に受け入れられるようになるんですね。
根気強さは今、制作に大いに役に立っています。
昨夏イギリスに行く機会があり、元々古い物が好きなのでロンドンの市内・郊外のアンティークショップやマーケットに立ち寄っていました。
そこで子供服を作り始めるきっかけになった”スモッキング刺繍の小さな子供服”に出会いました。
これについては前々回に書いたとおりです。 →前々回はこちらです
刺繍は時間も手間もかかります。
生産性は低く、たくさん作ることはできません。
時を刻むように一針一針進んでいきます。
アンティークマーケットで出会った子供服もどこかの誰かが一生懸命に時間をかけて作ったもの。
それが時を経て持ち主は替わっていっても捨てられずに、そのものに価値を見い出す人の元へ次々に渡っていくことを想う時、
私が作る子供服も成長して着られなくなった時、そのまま処分されるのではなく、残しておきたいと思ってもらえるお気に入りの服でありたいと願います。
そのためには上品で子供の可愛らしさをより引き立てるデザインであることや丁寧に仕上げることが大切だと思っています。
そんなことを思いながら日々一針一針進めています。