こんな時代 

この薄汚れた街角

春は来てくれた

勝者にも敗者にも公平に・・・

 

桟橋辺りの

上海から渡って来た

李香蘭という名の海猫の

優美な奏でに誘われて

無理にでも笑えと

自らに言い聞かせる

 

ああ

この歪な笑顔さえ

広い空の下では健気で

 

なあ李香蘭

俺の心の奥底に

たまりにたまった

薄汚れた男の純情や

裏切りの路地で

掠め取った

偽物の正直さやら

全部全部啄んで

空の彼方へと・・・と

貴女は綺麗だ

 

卒業を前にした

制服姿の

恋人たちの囀りが

初々しくて

ちょっと涙した俺は

令和の時代にも

ちゃんと恋をしている

この二人が愛おしくなって

口笛なんかを吹いた

 

恋人もいない街角では

寂しすぎるから

 

春が来たからと

遠慮がちに散る梅の花に

君は決して

桜の前座などではない

二月を飾ってくれて

どうもありがとう

そう呟く

そんな俺を横目に

桜の蕾が膨らんでゆけば

今年は

桜を題材にした

名曲が誕生するだろうかと

音楽業界を思い遣る

 

音楽

何を聴こうか

思わず

ジョニーサンダースなんかを

取り出すも

もう聴けないよなと苦笑い

行き着くところ

西野カナに・・・

 

二十代の彼女を聴きながら

呟いた

 

彼女とは

新横浜で

さようならしたきり

五年も経つのかと

 

そして

もうすぐ彼女の誕生日だ

派手な事は出来なくとも

せめてここに

おめでとうを記さねばと

頷く

 

南風が吹いたから

春が来たねと

燥ぐ少年

 

花粉症が怖いと

俯いていた彼女も

やっぱり春はいいねと

笑った

 

アンサンブルのスーツに

パールのネックレス

板につかないねと

入学式帰りの

若いお母さんの照れ笑い

 

桜に負けたくないと

背伸びする菜の花の黄

 

眠っていた蝶々が

恥ずかしそうに羽ばたく横で

春だから

さようならなんだねと

少女は泣いた

 

それぞれにそれぞれの春・・・

 

今年も桜が咲き誇るのだろう

その前に

恒例の君の誕生祭が

二十歳の君がくれた

言葉やメロディ

未だ鮮明に

 

同じ空の下に居るであろう

三十代の君の

言葉やメロディーが欲しい等と

 

思い出だけでは

生きていけないなんて

人は皆我儘なのだろうか

 

いや

いいんだ

君は君らしくで・・・・・・・・・・・・・・・