誕生=喜び

残念ながらそうじゃない

棺桶に入る時に

心から(ありがとう)と言える人が

どれだけいるだろう

 

母さん

あなたは軽率にも俺を産んでしまった

あなたのお腹から転げ落ち

バラバラになったこの心を

医師は完璧に縫い合わせることが

出来なかったようだ

 

用意された不幸を行けば

絶え間なく 怒りの渦

 

故意に橋桁を外され

川で溺れてみれば

それは試練だと古の嘘

抗って抗って

謙虚を謳う体制の縦横に捻じ伏せられ

流れ落ちて

人は愚かしい

だからこそ愛おしいとぶん殴られ

自己責任

 

今流行りの武将

アンタが天下を取る為に

どれだけの

名も無き命が失われたっていうんだ

彼等だって

愛する者は有った

だが弔ってさえもらえない

ただ戦場でカラスの餌になるだけ

こんな理不尽の上に成り立った勝利を

手放しに美しいと言えるか??

 

俺はそこが気になるんだ

何と言われても

 

流産と命

愛してくれる筈だった親に嬲り殺された命

不治の病と早すぎる死と命

不慮の事故で失った命

犯罪者に奪われた命

自ら断った命・・・

 

これらをも自己責任と切り捨てる気運が

どうしても気になるんだ

どうしてもだ

 

父親の死も母親の死も看取ることなく

この街で浮遊する俺の軽い魂

けどさー 

あの家がデザイナーへの夢を

デザイナーという職業を認めてくれてさえいれば

違う結果になったんだろうと

虚しく空を見上げてみても

もう還ってはこない命二つ

 

何故か風の無い丘の上に佇んでいる

真っ白な煙に包まれた

雅やかな空間に

死んだはずの母が眠っていた

俺の気配に気付き

目を開けて

そして

(ごめんよ)

(あなたが産まれた時心から嬉しかったのよ)と

突如優しさを取り戻したこの心が

母へ最初で最後の(ありがとう)を言わせてくれた

目を覚ますと俺は泣いていた

 

そして

こんな俺でも愛してくれた

数少ない人々に

再び(ありがとう)と呟いた

 

(ありがとう)なんて素敵な言葉だ

(ありがとう)がなければ

どれほど殺伐とした世の中だったのだろう

 

それでも疑いながら抗いながら

壁伝いに歩いてゆかなければならない

我が人生よ・・・・・・・・・・・・・・・・・・