夕陽に照らされた愛染橋を

急行列車が駆け抜けてゆく

カタン・コトン・カタン・コトン

律儀なまでに

正確にリズムを刻みながら

 

加奈子が言った

この町だけのメロディーよ

そして美しい風景

優しい恋物語のワンシーンの様

 

作も頷き

二人聴き入る

 

ちょっと照れてしまった作が

口笛で僕達の失敗を

吹いてしまったりしたものだから

余計に切なくなる

 

作は東京の大学へ

私はこの町に残る

春が来ればお別れ

春だからこそさようなら

 

僕はそう思いたくない

さようならは別れの言葉じゃなく

再び逢うまでの遠い約束だと・・・

 

加奈子は首を横に振った

 

セーラーの薄いスカーフで

作の心と私の心を永遠として結びたい

けれど東京で変わってゆく

あなたの未来を

縛れない

縛ってはいけないの

 

俯きながらも作が言った

 

学校の花壇に二人で植えた

春に咲く花

今年

見事に咲き誇ってくれた

僕等は抱き合って喜んだ

君は散るという言葉を嫌ったよね

だから落ちたと表現した

 

春愁に涙した君の肩を抱き寄せる

春を押しのけ五月雨の匂い

紫陽花を見失った頃

炎暑には幼い悪戯と微笑み

秋麗と紅い葉とうたた寝は

冷たい風に揺り起こされて

粉雪の愛染橋

 

季節は巡り

もうすぐ二度目の開花

今度は君は胸を張って

散ったねと言うだろう

僕は正気でいられるだろうか

 

作 

あなたは本心私の幸せを願ってくれる??

私は 

責任をもって作の幸せを願うよ

初恋が

淡く甘酸っぱい思い出になる頃

大人に成った私達はただ笑い合うの

 

作は小さく頷いた

しかし

半ば強引にもっともっと思い出を作ろうとする

 

加奈子はそんな作を窘め

私達はもう思い出で溢れている

後は愛染橋の見えるこの景色を眺めながら

他愛もない話に

泣き笑い怒りながら

淡々と過ごしましょう

クライマックスは一回でいい

二度目の開花に子供のように喜び

しかし正々堂々と散ったねと

言い合えれば

 

初恋が持つ

永遠に二人でいたいという

幼い想いは

やがて東京で二度目の恋に落ちるであろう作

やがてこの町で新しい誰かと愛し合うであろう加奈子を

激しく拒否しつつ

大人の階段を上らざるを得ない人間の定めに

諫められながら

認める勇気が幼さを乗り越えた時

咲く花を散らす

 

冬の愛染橋が見えるこの景色を眺めながら

平静を装い

他愛もない話に興じる二人の抵抗とうらはらに

来たるべき春を知らせようと

徒に蕾が大きくなってゆく

 

春が別れの季節だと

散る花に本心涙出来るのは

若さ故・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・