幼さと可愛さと愛おしさを孕んだ天使

 

俺は人生の中で一度きり

天使に出会い

天使と戯れ

やがて別れてしまう寂しさに涙した

 

その頃俺は

世界を見据え

魂を以て魂に語り掛けていたんだ

 

池袋・三畳一間・家賃二万円

天井を鼠が這いずり回っている

その不規則なメロディーがBGM  

俺のアトリエは・・・

 

本来甘い香りのするテディ―な男を

カリブに浮かぶ

キングストンの猥雑を生きる老人のニッチな匂いに変えて

気にする様子は無し

 

今でも懐かしくそして愛おしい空間だった

 

一部屋一部屋を一人一人の執念が

電流を走らせ

危険な火花を散らせている

甘ったれた奴が近付けば

焼け焦げちまうぜと言わんばかりに

 

対照的な

上品な住宅街の住民からは

忌み嫌われた

ゴミの捨て方すら知らない

若い情熱の塊たちに遠慮は無い

 

或る日

この混沌の中から

一日だけの抜け駆けを試みる

 

盗んだ自転車に乗って

摩天楼の最上階

世界最高峰の美容師

ウォーレンを訪ねる

 

手慣れた手付きで

且しなやかに

俺を最も美しい男に仕上げてくれた

 

そしてマセラッティーの香りのする男へと帰還した

 

だが

もっと努力せよと

アトリエが手招きする

 

その時だった

天使の囁きが聞こえてくる

 

目の前のハイグレード住宅に住む

三歳~~四歳位の女の子は

礼儀正しく(こんにちは)を言う

 

慌てて俺も(こんにちは)を返す

 

あどけないその顔で

上目遣いに俺を見て

含み笑いをすると

大邸宅の中へと消えていった

 

俺は フッ ガキか そう呟きながら

正反対の小汚い部屋に戻った

 

鏡を見ると鏡面が

綺麗ですよと

下手な世辞を飛ばす

 

その鏡を軽くコンと叩いて

デスクに座る

 

すると今度はデスクが

いい匂いがしますねと言う

 

こんなこと

久しぶりだったからなのか

妙に照れてしまって

みるみる顔が赤く染まってゆく

 

シャイだな 俺は笑った

 

朝八時

何時も通りコンビニで朝食を買う為に

玄関を出る

 

すると

ピンク色の三輪車に跨り

お揃いのピンク色のヘルメットを被った天使が

(お兄ちゃんおはよう)と挨拶してくれたのだ

 

何処へ行くの??と訊きながら

大通りとの交差点までついて来てくれた

 

不器用に三輪車を漕ぎながら

 

交差点を過ぎると

大きな声がする

(お兄ちゃんいってらっしゃーい)

 

踵を返しホームへと帰ってゆく彼女の背中には

真っ白な羽が生えているのかとさえ思ったよ

 

コンビニから戻ってくると

彼女の姿は無かった

 

しかしである

翌朝玄関を出ると

天使は昨日と同じ様に

三輪車に乗って俺を待っていてくれたのである

 

まさか天使との朝デートがこの先長く続くとは・・・