ある春の日、M様という女性からのご依頼がございました。

電話番に必要事項と共にM様の苗字をお聞きした時に、
特に珍しい苗字ではないのに、同じ苗字のグラビアタレントさんの
名前をなぜか思い出し、記憶の目印のように脳裏に焼き付いておりました。

その当時勤めていた店舗の近隣だったこともあり、すぐにM様のお宅に
到着致しました。

オートロックを開錠していただき、エレベーターで向かう途中も、
お会いするとは思っていない、そのグラビアタレントさんの名前を
幾度となく思い出しておりました。

そして、玄関に到着し、インターホンの合図で開いた扉を開きました。
開けてくださったのは、うつむき加減のすらっとしたスタイルのクールな
お顔立ちの美人の女性でした。

体調が芳しくないのか、表情も暗く、玄関が逆光状態になっており、
その場でははっきり気付きませんでしたが、見覚えがある気がします。
M様に指定されたリビングに移動し明かりにはっきり照らされて確信しました。

そうです。先ほどまで頭の中で連呼していたグラビアタレントのM様ご本人
だったのです!こんな事もあるんですね。
正直に申しまして、非常に驚きました。

しかし、プライベートで体調が優れない為にお呼びくださったのに、
動揺していては大変に申し訳のない事でございます。
内心の動揺を何とか隠し、あくまで通常通りに簡単な状態の質問から
施術に入りました。

通常は、世間話をしながらの施術か、反応が芳しくないようでしたら、
必要最低限にとするかお客様に合わせているのですが、この時は動揺を
隠すのと、話していい事、避けたほうがいい事の判断がつかずに、結局
ほぼ会話のない状態で終わりました。

終了後のM様は、多少の疲労感こそ残ってはおりましたが、
到着時に不調から暗く不機嫌そうだったのが消え、笑顔で

「楽になりました。よく眠れそうです。ありがとうございました。」

とおっしゃっていただけました。

小生が動揺して話しかけたりしなかったのが、結果的には良かったようです。
こちらもほっとして撤収させていただきました。

(つづく)


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