長らくある曜日に必ずお呼びいただいていたお得意様に
上場企業の役員をされているB様という方がいらっしゃいます。
関西出身のアクが強いけれど味のある口調のいぶし銀と
いった表現がよく似合う方でございます。

とある著名人の多く住まわれているマンションに単身赴任で
住まわれていらしたのですが、そちらにパートナーとお二人で
お呼び下さっておりました。

有難いことにとても気に入っていただいたようで、
お呼びいただく曜日は、

「毎週、その日の予約時間の確認の電話をしてくれ。」

との事で、確認後、私が店に予約枠を確保しておりました。


この上得意様のB様にも、たった一つだけ困った事がございました。

それは、順番待ちの際に、B様が好んで飲まれていた、

「ニンニク酒」

の強烈なにおいです。

慣れるまでは目眩がしそうな位の強烈さです。
鼻息を止めていても、油断すると逆流して入り込んできます。
タバコの煙等のこちらの衣服に、においが染み付くような場合は、
ご遠慮いただくのですが、このにおいは終了退室後は簡単に
消えるので、上得意様の事と顔色を変えないように、
がまんしておりました。

数ヶ月経った頃の事です。

B様の施術が終わって、パートナーの方がお受けになっているのを
ソファーに座ってTVを見ながらご覧になっていらっしゃいました。
もちろんいつものように「ニンニク酒」を飲みながら。
この状態は当たり前となりましたが、におい自体には慣れません。
小生の表情は懸命に固めていますが・・・

それを見たB様

「この酒、くさいかー?におうかー?」

分かった上でにやにやしながら聞きます。パートナーの方は

「いい加減になさいよ」

と窘めてくださいますが、相変わらずにやにやとしていらっしゃいます。

さすがに少しだけ

「いい加減に・・・」

と思いましたが、普通の反応をするのも癪に障る気がしました。

そこで何も言わず出来るだけB様と同じような笑い方でにやっとしてみました。
それをご覧になったB様、ほんの一瞬だけ真顔になった後に、少しだけ含みを
増したにやにや笑顔に戻されました。

それがB様のお求めになっていた正解だったのかは分かりませんが、
その後も大変にご贔屓にしていただけました。
ニンニク酒は相変わらずですが・・・

これだけだと、嫌なオヤジと思われてしまいそうですが、小生の父に
近い年齢のB様には、大変に目を掛けていただきました。

B様には不器用ながらも、色んな感情表現をなされる方がいらっしゃると
勉強させていただきました。


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