「和?」
「違うよ。・・ユージ、でしょ。結構濡れたね。あなたも。」
誤魔化す言葉を軽く無視して、俺を見る目が「どうした?」と聞いている。
変なところは勘がいいから・・困るんだよ。
「ほら。タカも拭いて」
タカの頭にタオルをかけて、ゴシゴシと擦った。
そう。まだ何もない。
俺の不安だって、全部、ただの杞憂に過ぎない。
それとも、いっそ・・
よく日に焼けた腕、耳、うなじ・・
それぞれに指を這わし、考える。
この身体のどこかにGPSでも埋め込めば、俺は安心出来るのか・・
「ねぇ。・・
他にもさ・・見たい?」
「他にも?何を?」
「さっきみたいな凄いやつ・・
ここだけじゃないよ。世界中の・・・見たことがないもの、とか、さ・・」
崩れ落ちる氷河、ピンクの海、一面のヌーの群れ・・
どこまでも広がる砂漠や天から落ちるような滝に、空に広がるオーロラ・・
きっと、智は好きだろう
またさっきみたいな顔をして、見つめて・・難なくこの世界と一つになりそうだ。
でも、俺は・・
「オーロラとか、ペンギンの群れとかさ。
やらなきゃいけない事もないし。この先何をするかも決まってない。
ただここにずっといるより、あちこち回ってさ・・・
見たいものを見て回る・・。気ままな放浪の旅ってやつだよ。どう?」
智は少し考えてから、「いいな」と言った。
一緒にいるんだろうか。その時も。
馬鹿な俺は、うっかり手を離してはいないだろうか・・・
「・・っ!」
急に頭からタオルが被せられ、髪の毛も顔も、もみくちゃに拭かれた。
「いたい、いたい、いたい!」
タオルの向こうから、智の笑い声がする。
「何するんだよ!急に!!」
ようやくタオルから顔を出すと、智は笑顔のまま、ぐちゃぐちゃになった俺の前髪を直し始めた。
「・・一緒に行こうな」
言葉、声、その触り方も、全部が優しい。