大きい


まるで、海の中にビルがいきなり生えたような錯覚すら起こさせる。

地球上で一番大きな生き物が、白い腹を見せながら伸び上がっていた。


「和ッ・・!!」


庇うように抱きしめられた。その腕の隙間からクジラが海の中に倒れていくのを、轟音と波しぶきと共に見た。

かなり離れていたのに大波がきて、船がひっくり返る寸前まで揺れた。

波が収まっても、二人で馬鹿のように口をぽかんと開けて、動けずにいた・・。



「見た・・?」

「見た・・・」

「クジラのジャンプ・・」


昔見たCMの歌が頭の中で流れてる。

・・見たことの、ない、もの・・見てみたー、い、な・・・


「だよ、ね。あれ、・・」


まさか見れるなんて・・と、智を見上げたら、ぎゅうと強く抱き締められた。


「凄いな・・・。本当に、凄い・・・。」


智はまだ夢を見ているような目で、海から目を離さずにいる。



違うんだ

同じものを見ていたのに、こんなにも違う・・




ここは、嫌いじゃない。

俺だって、苦手だった海に潜ってしまうくらい、ここに馴染んでるし。

・・でも、最近思うのは、もしも、のこと。

海に入ってでもジンベイザメに会いたいのは、Wi-Fiもない、端末もないこの場所だから、で。

もし、環境が整ってる場所に帰ることになったら・・?

どうなんだろう。ここを懐かしむのか、戻りたくなるのか・・。いや、元の俺に難なく戻ってしまう気がする。

だって、俺。ゲーム好きだし・・

でも、智は違う。

余程のことが無ければ帰らないだろうし、帰ったら帰ったでここにいる時のような・・力の抜けた笑顔を見せてくれるのだろうか。


智にとって自然は、あまりにも魅力的すぎるんだ。
多分、俺なんかより・・ずっと・・・。

 

・・あ。やばい。

想像でしかないのに、なんか泣きそう。



今は、ちゃんと手を伸ばせば届く所にいる。すぐ隣にいるのに・・・

    


一人きり・・

誰もいない電脳の海の底で、膝を抱えてうずくまる自分が、頭に浮かぶんだ。