ドアが静かに開く。
そこから滑り込むように、そっと入ってきたのは、本田だった。
今、二宮の家の合鍵を持っている者は居ない。
だが、いつ作ったのか。本田は合鍵を持っていた。
「補助錠もかけず、鍵も変えてない。不用心だよ?
悪い人が入ってきちゃうじゃないか。だから、心配なんだよ・・。」
ドアに鍵をかけると、やれやれと本田はため息をつき、仕事部屋へと向かった。
「あれ?・・居ない?」
そこは、もぬけの空だった。
機材はそのままだったが、迂闊には触れない。二宮の性格からして、きっとウイルスか何かのトラップが、仕掛けてある気がした。
念の為、他の部屋も調べたが、何処にも二宮は居なかった。
「ふーん・・・?」
逃げた理由は?単にヤバい情報を持っているから、だけなのか。
それとも・・
本田はスマホを取り出し、自分が作ったサーバーに繋げた。
右澤のアカウントからのアクセスが一つ。
馬鹿な右澤を切るついでに大野達を利用したが、まさか・・。
もう一度仕事部屋に戻り、稼働しているパソコンに自分のもう一つの携帯を繋いでみた。
案の定、携帯の情報が消えた。
本田は携帯を外すと、それ以上何もせず、二宮の部屋を出た。
「・・・ふ。ふふっ、ふふふっ」
車に戻ると、本田は肩を震わせ笑い出した。
「二宮君!やっぱり、君はいいよ。最高だ・・!僕の目に間違いはない。」
本田は嬉しくてワクワクしていた。
自慢ではなく、あのセキュリティを破るなら2時間はかかるとふんでいた。だが、二宮はきっとあの中から、あの事件の時の情報も手に入れているに違いない。
あの短時間で
「素敵だ・・!ナイスパフォーマンス!
君はその顔や身体だけじゃなく、脳まで美しい・・」
感嘆の溜息をつき、「やっぱり会いたいな」と呟くと、後部座席で眠る大野の姿を写真に収め、二宮へと送信した。
「きっと、連絡がくる。
大野君。二宮君にはすぐに会えるよ。
一番綺麗な姿を見せてあげよう。そうしたら、君にも分かるよ・・・
人はね、それが倫理的に悪だとされていても、抑えきれない衝動や欲望を抱えている。
勿論、許されるわけはないよ。この国は法治国家だ。だから警察もいるし、法律もある。
でも、それは表向き。許される階級っていうものは確かにある。
右澤は、その末端に過ぎない・・。利用価値はあったから入れてあげただけだ。もう、要らないけどね。
君もこちら側の人間になると・・いいのにな。」
無理かな、と付け足して笑った。
送信してから数分後、二宮からメッセージが入った。
「あそこか!あの場所を選ぶなんて、なんて素晴らしいセンス!
いいねぇ、いいねぇ。」
本田は興奮し、車のエンジンをかけた。