二宮は、コンビニで水とガムを買い、ビニール袋をぶらぶらと揺らしながら自宅に戻った。  

意外に思えるが、この普通さと、今からやろうとしている事との温度差が、程よく緊張感を解いてくれる。

大事に向かう時ほど適度に力を抜いておかないと、視野が狭くなる上に勘も鈍くなるのは経験から得た教訓だ。

手をグーパーしながら、震えが治まっていることを確かめた。


ーーうん、大丈夫だ。いい感じ・・


夜空に独り言を呟き、マンションのエントランスをくぐった。





自宅の鍵を開け、靴を脱いだのを見計らったかのように、携帯が鳴った。


「もしもし」


電話の相手は本田だった。近くまで来ているので会いたいという。

   
「・・すみません。今はちょっと・・時間がなくて。 

ええ、そうです。出かける用事が・・」


咄嗟に嘘をついていた。

本田さん相手に何を警戒しているのか。だが、時間がないのは本当だ。

それに、何かが引っかかった。

強いて言うなら、このタイミング。


『そうか。忙しいね。残念だな。』


本田は二宮の言葉を疑う素振りも見せず、電話を切った。



「・・ふぅ。

なんだって言うんだ。俺は・・」


相手は本田だというのに、何故か緊張した。その緊張が何故なのか。

今、だからか?

・・そうだ。こんな凄い情報を手にしてる。今、だから・・過剰に反応してしまうのかもしれない・・





それよりも、今はやる事がある。

時計を見ると、自分が右澤家を出てから1時間が経とうとしていた。

そろそろ、大野も来る頃だろう。




・・やはり、家は駄目だ。大野が来たら場所を変えよう。きっと、その方がいい・・
 
それに、そうしたら本田に嘘をついた事にはならないし、と、少し笑った。




二宮は、インターホンの音が聞こえるよう、仕事部屋のドアを少し開けたまま、作業に取り掛かった。

右澤家でダウンロードした情報を整理しようとも思ったが、はやる気持ちが抑え切れず、まずは自分の映像を開いた。




自分の痴態を客観的に見るのは初めてで、吐き気がした。しかも相手は同僚で、この後は・・

叫び出したくて、喉が震えた。

それでも、二宮は自分の気持ちを抑え、冷静に細部まで見ていった。

そして、同僚の、あのシーンがきた。




やはり、見たくはない。目を晒したい・・

目を・・


「・・・・・」


そこで、二宮はマウスをクリックした。










そうして15分くらい経った頃、ドアがカチャンとごく小さな音をたてた。