ノートパソコンで管理しているとしたら、本体のハードディスクの保存量などたかがしれている。
これまでの映像をライブラリーとして保管しているなら、クラウドのように外部のサーバーと繋がっている筈だ。恐らく、その為の専用LAN。
ここのセキュリティーが結構固い。二宮でも思ったより手こずり、時間を使ってしまった。下の様子を見に行った圭介が、そろそろ起きそうだぞと焦って戻ってきた時、ようやく中に入れた。
「こっちはもう直ぐだ。二人とも、もしもの為に元いた場所に戻って。
何もなかった振りでもしててよ。」
「皆で寝てましたね、なんて誰が信じる」
「それでも、犯人扱いはされない。いざとなったら圭介君にご登場してもらって。
それだけで家族は驚くだろうし、時間を稼げる。
俺はなんとかするから大丈夫。逃げる算段はある。」
「駄目だ。何かあれば、お前が犯人にされる。そこまでさせられない。」
「いいから!
この時間が勿体無い。集中させてよ。
早く行け!俺の為だって言うなら、行ってろっての!」
二人は渋々ながら部屋を出て行った。
これでいい・・
二宮は息をついた。
「集中させて」というのは本音だったが、もしファイルが見つかった時、中身を確かめなければならない。
二人には、中身を見せたくなかった。
しかし、誰が作ったのか。この保管サービスは手が混んでいる。
これだけの犯罪級の画像やら情報を預かるならば当然だが、一体誰が・・
何個目かのパスを開けると、画像が入っているファイルが見つかった。
日付を入れると、あの日のものがでてきた。
場所は圭介の部屋。右澤と立花しおりが映っていた。やはり残していた。
被害者は自殺しているから、強制わいせつで時効は30年。
大丈夫だ。これがあれば立件出来る。・・あいつらが手を汚す必要なんか、ないんだ。
この画像をダウンロードしようとして気づいた。
ここにある画像は証拠の山だ。探れば他にも余罪は出てくる。
決断は早かった。
時間はかかるが、ほんの数分伸びるだけだ。ファイルごとコピーすることに決めた。
その頃階下では、眠っていた3人が起きだした。
大野は冷えた食事を温め直し、何事もなかった顔で3人の覚醒を待った。
あかりが最初に目を覚ました。大野が微笑み覗き込むと、「え、やだ。私。寝てた?」と恥ずかしそうに顔を隠した。
「少しだけだよ。それより、ご両親が・・。疲れてるんだね。」
「やだ!お父さん、お母さん!」
あかりが二人を起こしたことで、場が和んだ空気になった。
このまま何事もなく食事を続けれれば、二階の二宮は事を終えた後も逃げられる。
だが、二宮はまだ残っていた。
ファイルはダウンロード出来た。だが、どうしても引っかかる事があって、このサービス自体に侵入していた。
嫌な直感は当たる。
アカウントに振られた番号から見ると、利用者はせいぜい30人かそこらだが、重職に着く者達の顔がそこかしこにあった。よく調べればもっと出てくるだろう。
そして、会員番号が0のアカウント。これを作った本人かもしれない。
そのファイルを開けると、心臓が止まった。
指が、動かない。目も、閉じられない。瞬きすら、出来ない。
心臓だけは勝手に早く動き出し、ドクドクと流れる血の音が耳の中で反響する。
息が、止まる。
何故、これがここに・・!?
二宮は震える指を何とか動かしながら、そのファイルもコピーしたが、まだ体の震えが治らない。
「動け、よ!馬鹿・・!」
自分の脚を叩き、何とか立ち上がって窓の方へ行った。
外には人気はない。迷ってる時間は無さそうだった。
ふらつく脚で何とか屋根におりた。音を立てないようにそっと歩き、裏庭へと飛び降りた。
何か出来ることはないかと圭介は父親の部屋を覗くと、もう二宮はいなかった。
「俺にも出来ること・・」
何かないか、と見渡すと、一つだけ見つけた。
「これくらいしか出来なくて、すみません」
二宮が出て行った窓の鍵を閉めた。
窓の外を見ると、大野が食事を終えたのか、外に出てきた。家族が見送る中、何事もなかったように帰って行った。
「凄い、人、たち・・だな・・」
圭介は自分の部屋に戻っても、まだ夢を見ているような気がした。
だが、彼らがあれを世に出した時この家は・・
下に降りると、母親が驚いた顔をしたが、直ぐに料理を出してくれた。
圭介はそれを食べながら泣いた。