だめだ。もう限界・・
二宮はベッドに倒れ込むと目を閉じた。それでもこの厄介な脳は休むということをしない。起きろ、起きろと指令を出し続ける。
結果、体は寝ているように動かないのに、脳だけが覚醒している。いわゆる金縛りの様な状態に陥ってしまう。
これはとても気持ちが悪かった。
だが、大野は呼べない。
盗聴器の一件もある。大野は自分のことを疑っているだろう。
そんな時に呼んだりしたら。こちらの手の内を探られるかもしれないし、恐らくセックスどころじゃないだろう。
何にせよ、まだ顔を合わせずに進めたかった。
暫くはセックス抜きで寝なければならない。
ベッドの横にチェストがある。その一番下の引き出しを開けて、薬袋を取り出した。
そのうち、意識が乳白色の霧の中に紛れ込み、思考は途切れた。
ギシリと軋む音がして、二宮の意識は浮上した。
なんの音だろう
そっと目を開けると、部屋の中が暗い。まどの外はまだ夜明け前だった。
またギシリとベッドが沈んだ。何かが足元にいる気がしたが、暗くて見えない。二宮の全身が緊張と恐怖で強張った
まさか
実は、二宮はオカルトに弱い。お化けの類いを信じている訳じゃないし、一番怖いのは生きている人間だとも思っている。だが、お化けはいないという証明がない。
要は理屈じゃなく、怖いのだ。
冷や汗が脇を流れる。寝てる真似をした方がいいのか、声を出した方がいいのか・・
どちらも怖くて出来ない、どうしよう、と頭の中はすっかり混乱してしまっていた。
こんなことになるなら、やはり大野を呼べばよかった。
影が動き、自分の手を掴んだ。
ひいいいいい、と声にならない悲鳴をあげ、二宮の全身が総毛立った。
「い・・やだっ!
大野さん!助けてよ、大野さんっ!おおのさんっ!」
影が覆いかぶさり、抱きしめてきた。
「ぎゃーー!!」
死ぬ
もうだめだ
死んだ人間のことに関わったからだ
この化け物に取り殺されて、俺は死ぬ
「大野さ・・ッん、ん、っ、・・」
手首を強く押さえ込まれたまま唇を塞がれ、何かが入り込んできた。
くるしい
こわい
なのに、どうしてこのキスには覚えがあるのか・・
「・・ッは、ぁ、あ、ん、ん、」
一度離れた唇が、また重なってきた。舌が絡められ、裏筋をなぞられる。
ぞくぞくと体が震えた。
エロい幽霊もいるもんだ、と頭の中が冷静になってきたら、このキスが誰のものかを考える余裕も出来た。
「・・大野さん?」
二宮が問いかけると「なに」と、返事があった。
「一応確認だけど・・、あなた、生きてます?」
何故来たのか、とは聞かないでおいた。
「・・・まだ寝ぼけてるのか?」
「いや、お陰様で目が覚めました。
でも、一応確かめておかないと」
二宮が手を下へ伸ばした。確かに脚と、その間のものが触れる。
きゅっと握ると、大野の顔が少し歪んだ。
「生きてますね」
「何処で確かめてる」
「ふふ」
そのまま、二宮は手を動かし続けた。次第に粘ついた音がたち、手の中のものはもっと硬く、大きく立ち上がる。
緩んだ腕の中からするりと抜けて、大野の足の間に顔を埋めた。
合鍵を使ってまで、どうして・・
「・・・ッ、」
二宮がそれをくわえると、大野は堪らず息を漏らした。優しく、でもねっとりとした絡み方で舐められる。
大野の手もまた、二宮の頭を撫でていた。時折耳や首筋にも指を這わすと。二宮は舐めながらも甘い息を吐いた。
手も縛らない、こんな緩やかなセックスは、初めてだった。
愛おしい
お互いにそう感じていた。