慣れ親しんだ物は、微かな感触の違いでもわかるものらしいが、大野は確かにその通りだと1人納得していた。

マイクの受信機に何かが仕掛けられていた。恐らくは盗聴器。相手は?

相手が誰か。おおよその検討はついている。何の目的かは分からないが、介入させる気はない。

あかりの家の玄関で、落としたフリをして踏んだ。きっと今頃は怒りまくっていることだろう。


・・困った奴だな。


「大野さん?何か楽しいことでもあったんですか?」

「え?」


あかりに聞かれて、自分の顔を触ってみた。

彼女の言う通りだった。いつの間にか頬が少し、緩んでいた。






一方、二宮は行き詰まっていた。



何か、取っ掛かりが欲しい。関連性が無さすぎた。まるで、そこだけ切り取ったのか、最初から関係ないのか、と言うくらい富士岡と右澤に接点がなかった。

消去法で、大野のドナーである息子の耕太に焦点を絞って調べることにした。 

富士岡家は10年も前に全員が事故で亡くなって途絶えているが、親戚や近所に覚えている人がまだいるだろう。

それは分かる。分かるが嫌だった。だが、部屋の中で調べるには限界がきていた。

そもそもこれは仕事じゃない。ここで辞めるか、続けるかも自分次第だった。


そして二宮は何年かぶりに「足」を使った。文字通り、自分の「足」だ。

久しぶりに外に出ると、もう秋の風が吹いていた。そう言えば、大野が墓参りをしていた時、萩の花が咲いていた。



大野は、どうして右澤の娘と付き合いだしたのか。


好きになったから

右澤家とお近づきになりたいから

右澤家の内部に、入りこみたかったから




とすると、右澤家の中に入る必要があったからと考えるのが妥当だ。目的は、中にいる人か、物か、場所か。

場所は理由として考えにくい。

可能性がありそうなものは「物」か「人」だった。


物ならば、父親の仕事や人間関係に関連する、何かの取引や隠蔽の証拠。右澤氏は滅茶苦茶ダークでもないが、決してクリーンでもない。無い話ではなかった。


人だとすると、父親の光太郎、娘のあかり。母親の佐知子に兄の光亮。

誰かか。もしくは誰と誰か。

もしかしたら、

全員ということもある。



人間には、誰しも裏の顔がある。それは悪いことじゃないが、犯罪にまで至るとなると、話が違う。

その恨みを、法を通さず個人で解決しようとするのもまた然り。




そんなことはもう・・分かりきってる筈なのに。

それでも、なのか


二宮は空を仰いだ。久しぶりの外は疲れるが、確かに気持ちもいい。

あの日大野もこうして、空を見ていた。

あいつは一体、何を抱えているんだろうか・・








「こんにちはぁ」


二宮は誰にでも好かれそうな、控えめな笑顔で、富士岡家の菩提寺を訪ねた。

まずはここからだ。