二宮と大野が次に会ったのは、仕事の場でだった。画面越しに見る大野は、特に変わったところはない。

あの時の大野の様子からして、最悪来ないパターンもあるかもと気負っていたのもあって、正直拍子抜けした。


普通・・?いや。どうだろう・・まだわからないな


つい、大野に目がいってしまうが、仕事の手を抜く訳にはいかない。


「・・普通にやる気なら、やってもらった方がいいいか」


二宮もその後はいつもと同じように仕事を淡々とこなし、その日を終えた。

そして、次の日も、その次の日も同じ様に過ぎた。



「変だな・・」


自分の気にしすぎなんだろうか

だが、あの日の大野は確かに変だった。

何もない訳はない。二宮は網を広げ、根気よく待つことにした。





契約最終日。無事に警護対象を自宅まで送り届け、今回の仕事が終わった。

画面越しにだが、二宮が「お疲れ様」と声をかけると、大野は大して表情も変えずに返事だけをしてイヤホンをはずした。この素っ気なさも、いつも通りだ。

この日はそのまま帰るか、それとも・・

二宮はメインカメラを切り、ヘッドレストを外すと、別のものに付け替えた。仕事用じゃなく、プライベートで作った監視システムだ。

二宮の網が起動する。


「さて。楽しいストーキングの始まり、・・っと」


二宮は、温くなったボトルの水をごくごくと飲んだ。






監視を始めてから今日まで、大野は自分の家へ直帰している。

この日はそのまま帰るか、それとも・・




今日も空振りかと諦めかけた時、大野に動きがあった。向かったのは家に帰る道じゃない。

どうやら、どこかに寄るつもりらしい。カメラを切り替え追っていくと、見知った道に出た。


ここは・・



『大野さん!』

 
家の前で手を振り、出迎えていたのは右澤あかりだった。大野が何故右澤家に?驚いたのはそれだけじゃない。


「あかりさん!」


大野もまた手を振り返すと、見たこともない笑顔で駆け寄った。


「お仕事、お疲れ様です」

「無事に終わりました。・・貴女のおかげです。」


あかりの頬がぱっと赤くなる。「私は何も・、と」と、そのまま俯こうとするところに、大野が顔を近づけた。


「・・貴女が、待っていてくれたから、ですよ」

「え・・」


嬉しそうに俯くあかりの肩を抱き、2人は家の中へ入っていった。


カメラはここまで。

後は音声だけか、と肩の力を抜いた時だった。

ブチッと音がして、一切の音が消えた。大野に仕掛けておいた盗聴器が潰される音だった。







「なんの、茶番だ・・これは・・」


二宮は、息を吐き、ぎこちなくヘッドレストを外した。


大野は気づいていた。わざと、俺に見せた。



「あの野郎・・・!」



ヘッドレストを投げつけようとして振り上げ、・・止まった。


ーー舐めるなよ

そっちがそう来るなら、こっちも徹底的にやってやる。



二宮はまたヘッドレストをつけると、猛烈な勢いでキーを打ち始めた。