Fable Enables 28
昨日は予告どおりに放火が行われた。不幸中の幸いで、またしても死者や怪我人はいない。これは事前の手配が功を奏したと言えるだろうか。
その後がまずい。都合三件の放火が起きているわけだが、捜査はいっかな進展する気配が見られない。出張った警察の面子は丸潰れである。
ただ、普通の事件と扱うには奇妙な点があった。
まず、犯人の目撃証言がゼロである。一件目の進学塾での放火は、建物の中が現場であるにもかかわらず不審な人間が出入りした形跡が見られない。教師や生徒にも適正がある者がいない。二件目・三件目墓場と農場でも同じ。放火予告の騒ぎのせいでどちらも現場周囲には人だかりができ、あまつさえ私服警官が見張っていたにもかかわらず、怪しい人間を見た者はいない。
加えて、墓場と農場での放火は時限性の装置を用いた形跡は見られない。これは「どうやって人目を避けて放火を遂行したのか」という前述の疑問をさらに疑問化するだけでなく、もうひとつ重要な問いかけをしている。
墓地での火災が起こったのは午後六時十分。
農園での火災が起こったのは午後六時十五分。
都合十キロメートルも離れたふたつの現場で、ほぼ同時に火の手が上がっている。 ひとりでできる業ではない。犯人は複数いると考えるのが妥当である。
ここでまた首をひねることになる。放火に予告状、現場への置き土産、事件をなすガジェットは嫌でも単独犯を連想させる。複数犯というイメージが崩れる。
無理に単独犯と考えると、ますます面倒なことになる。
人目に付かないように放火。
十キロの道のりを瞬間移動。
通常の人間には不可能である。
裏を返せば、通常ならざる人間ならば可能である。
嫌な予感がするのである。
「ちょっと、ユキヤ、聞いてるの」
アミの刺々しい声で我に返った。
「あ、うん、なに」
「このブニブニは飾りですか」
アミは俺の耳をぎゅうぎゅうと引っ張った。
「やめんか、子供かよ」
「子供だよ。あんたは二十歳過ぎてるの?」
やっぱりご機嫌なアミと不機嫌なアミには注意である。俺は返事を諦めた。
「で、ユキヤはどうするの。もう待ってればいいじゃんと思うんだけどね」
深窓の令嬢という佇まいで難しい顔をしているマコトを見ると、返事は難しくなるのだった。
