Fable Enables 27 | ユークリッド空間の音

Fable Enables 27

「作戦はよかったんだけどねえ」
 頬杖を突いたアミが漏らした。
 マコトは黙ったまま、オレンジジュースをストローでちびりと啜った。
「警察の能力は計り知れなかった、ってだけのことよ」
 アミは客席で窓の外を見ていた。
 マコトは向かいの席で膝の上にソーサーとグラスを載せ、俯いていた。
「要はどーしようもなかったワケよ。まあ、目標は相手に気づかれないように相手の素性を探ることだから、五分五分だね」
 アミの声はどことなく嬉しそうだった。
 マコトは口をへの字にて誠に面白くなさそうな顔をしていた。
 相変わらず悪趣味だな。真綿で首を絞めるようなアミのたわむれ言を、俺はカウンターの中で聞いていた。今近寄ると飛び火する。ご機嫌なアミは不機嫌なときに負けず劣らず口が悪い。コーヒーのドリップにこんな時間潰しの機能があるとは知らなかった。フィルターの上にこんもりと浮き上がっては沈んでいく泡を相手にしながら、俺はひたすら知らんぷりをしていた。
「確かにそうです」
 マコトは拗ねた様子で言った。
「確かにアミさんのおっしゃるとおり、警察が犯人を逃すことは想定外でした。塾での事件との繋がりを考えて犯人の絞り込みをできていればよかったかもしれません」
「『タラレバナラ』は安売りしないほうがいいよ。本人へのものは苦い薬で他人へのものは苦い毒だから」
「……」
「ねー、コーヒーまだ?」
 気づかれたか。俺は溜息をつき、温かいカップをふたつ、客席へと運んだ。ひとつは店のもの、ひとつはマコトが持ち込んだものである。アミは店のものを自分のものとして使うことが当然で俺もそれが当然だと思っている。一方のマコトはこんなところでも則を崇めているというか縛られているというか。ただここに居座る意志は持ち合わせているようである。
「おまっとさん」
「おまったわよ。ったくサービスのなってない店員だわ」
 アミは角砂糖をドサリと放り込むと、親の敵のようにグルグルと混ぜた。
 俺は伸びをして、隣のテーブルに着いた。ちらりとマコトを見る。目が合わない。合わせてくれない。
「で、マコっちゃん」アミはスプーンを弄びつつ頬杖を突いた。「ワタシはもう遠くから見ているだけのほうがイイと思うんだけど。巻き込まれてもいないのに巻き込まれようとするなんて、ワタシのポリシーに反するの。暗号の報酬もまだなんだからさあ」
 アミは俺に流し目をくれた。知らん顔をしていると、軽い舌打ちが聞こえた。
「巻き込まれているかもしれないんです、もう」マコトは顔を上げた。「カケルさんがあんなものを拾ったときには」
「あー待て待て待って皆まで言うな。わかってるわよ。七芒星でしょ。だからさ、そこに召還師が絡んでくるかどうかはまったくわからないんでしょ」
「そうでもありません」
「あら、そうなの」
「おわかりのはずです。犯人が捕まらないことが最大の証拠なんです」 

 

 


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