「小さい字(前篇)」 | ユークリッド空間の音

「小さい字(前篇)」

ガラパゴスゾウガメ一頭去年今年




初夢の残していった涙かな




成人の日に憧れる左官かな




もう一度やまいだれ書く冬日和




竹馬を作れり父の工具箱




啓蟄や少し深爪してしまう




予備校生光源氏の目を描く




春めくや母子で作る図書カード




イヤホンが置き去りにした春景色




春の雲色鉛筆に白のあり




鳥曇煤のついたる一斗缶




自販機の番えて立てり春の闇




小駅の朧を貨車の貫けり




鉛筆の芯の太さや四月尽




仔猫らを仔猫と呼んでいる孤独




蝸牛アルデンテまでもう少し




六月のポットのゴゴゴゴゴゴゴゴ




ここからは一両運転夏野原




川蜻蛉杭ひとつ傾いている




扇風機じっと枕を見つめおり





(黒鳥の会アンソロジー)