ベンガラは褐色顔料で、赤に近い明るい茶色をしている。組成的にはほぼ鉄の赤錆に近く酸化第二鉄Fe2O3を主成分とする。インドのベンガルで産し、輸入されていたためになまってベンガラと呼ばれるようになった。
土なので、最も古い顔料の一つ。洞窟の壁画に使われた。他の土性顔料と同じく安価、安全、高耐久力だが、これは飛び抜けて着色力、隠蔽力が強い。ほんの少しの量でどぎつい影響力がある。こういうのは顔料の屈折率や粒子の形、大きさが影響していて、ベンガラは全てが最強に近い条件を備えている。つまり、屈折率が大きく(光を乱反射させ)、適度な大きさと形がある(隠蔽力がちょうど最大になるあたり)。
顔料番号はPR101(ピグメントレッド101番)で、ホルベイン画材の規格だと「酸化鉄」。ホルベイン油/水彩絵の具では「ライトレッド」がこれに当たる。油絵の具では「ベンガラ/弁柄」という名前ではなかなか売っていない。またベンガラというか酸化鉄は合成できて、粒度を小さくしたいわば「透明なベンガラ」のようなものも作ることができる。ホルベインからは「ブラウンピンク」の名前で出ていたが、廃番になってしまった。もしこの色が欲しかったらトランスペアレントゴールドオキサイドとトランスペアレントレッドオキサイドを100:4で混合するべしと公式はアナウンスしている。別情報ではトランスペアレントゴールドオキサイドにちょっぴりだけビリジャンヒューを混ぜろというのもある。
他、クサカベでは同じベンガラで「ベネチアンレッド」として売っている。ウィンザー&ニュートンからも水彩でこの名前で出ている。なんだか同じ顔料で名前が色々とばらばらだが、名前を統一しなきゃいけないという決まりは別にないし、天然物は成分も微妙に違うからこうしたごちゃごちゃがけっこうあったりする。
ベンガラの価値は、おそらく絵画よりもそれ以外での使用の方が重要であったのかもしれない。建築においては、その使用が日本においては八世紀以前のものから確認できる。古代の日本で使用されていた赤色顔料はベンガラの他には朱、鉛丹があるが、八世紀以前において使用が確認されているのはベンガラだけのようだ。鮮やかな色に選択肢がなかった昔に、ベンガラは供給可能な赤色だったのだろう。
のちの時代になっても朱は高価な顔料なので身分のある者でなければ建材には用いることはできなかっただろうが、ベンガラは江戸時代になると柱の防腐、防虫効果を見込んで農村に普及した。ベンガラを何度か塗っては乾かし、最後に柿渋を塗って仕上げたようである。
柿渋は渋柿の汁を発酵させたものである。私は嗅いだことないが、すごく臭いらしい。防腐効果があるのみならず、繊維を強化したり撥水作用があったりするので、漁民が網を浸して改良したり、笠や蓑の防水に使ったり、夏の衣服に塗ったりなど様々に使用した。この柿渋とベンガラは農村の衛生と快適さを保持するのに有用だった。
その他我々に身近なところにあるとすれば、お味噌汁のお椀がベンガラで彩られているかもしれない。漆器は黒く塗られていたり赤く塗られていたりするが、漆はもともと樹液の状態(精製しただけ)では黄色がかった乳白色である。その樹液に黒くするなら水酸化鉄を混ぜて反応させて黒くし、赤くするならベンガラか、あるいは辰砂(朱)を混ぜて色をつける。だから、お椀の赤い部分はベンガラの色である可能性はある。
あんまり高級なお椀だと、辰砂である可能性の方が高くなる。逆に安すぎると合成顔料を使っているかもしれない。ほどほどに良くて、ちゃんと漆を使ってるくらいのお椀なら、ベンガラかもしれない。ちなみにお椀だけ見てちゃんとした漆器かそうでないかを見分けるには、底が分厚いかペラペラかで判別できる。
