R・J・ゲッテンス、G・L・スタウトの共著、森田恒之訳、美術出版社。西洋画に関する材料をほぼ網羅した一冊で一つ一つの項目も充実しているが、わりあい本自体は大きくなく、鞄に入れて気軽に持ち運べる重さである。
内容は専門的であり、また場合によっては化学式なども登場するので、初学者にはとっつきにくいかもしれない。しかし展色財から道具まで全体的に、モノに関して分からないことがある時はこれを引けばいいので油絵を志す人は買って損はないと思う。それほど高くないし。(と書いて不安になって少し調べたら中古市場が非常に高騰していたので、重版未定か絶版になったのだろう。残念なことだ。しかし探せば安く手に入るかもしれない)
また単に材料そのものに関した説明、辞書的な記述だけではなく、事例の提示や、「誰それはこう言ってた」など引用がある。引用元まで行くとか十分な活用をするとなると外国語文献を当たることになるので、かなり上級者の使い方になる。多くある引用文献のうち、翻訳されているのはチェンニーノ・チェンニーニ「芸術の書」、レオナルド・ダ・ヴィンチ「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記」、テオフィルス「さまざまの技能について」、ヴィトルヴィウス「ヴィトルヴィウス建築書」の四つのみ。しかし訳者の森田恒之氏が日本語文献目録を巻末におまけでつけてくれているので、そういう気遣いが嬉しい。
一方で、これは巻頭で訳者本人が書いていることだが、この本にまとめられた知識というのは1940年代までのことで、それ以降の急速な科学の発展による画材の進歩を拾いきれていない。例えば顔料については1935年に商品化されたフタロシアニンは項目があり、その優秀さや登場の重要さについて記述されている。しかしそれよりもっと新しい、より最近登場したキナクリドンやピロロピロールについては書かれていない。そう言った意味では不足のあるもので、出版の時期と科学の進歩の仕方がタイミング的に微妙だったことは著者も悔しがっていたようだ。しかし、これが名著であることには変わらない。特に材料に関心のある絵描きさんなら一生を共に年取っていく蔵書の一つとなるだろう。