むかしむかし、ある所に独りぼっちの娘がいました。
けれど娘はとても強く優しい心の持ち主でした。
また、とても聡明でした。
ある日、王子と運命の出会いがありました。
初めはとても仲が悪い二人でした。
けれど共に過ごすうち、凍った心は少しずつ溶かされて行きました。
このまま真実の愛が生まれて永い呪いから解放され、独りと独りは二人になれるかと思われました。
ですが最後の瞬間、僅か、ほんの僅かですが呪いが解き切れませんでした。
変わり果てた王子の姿を見て、驚いた娘は少しだけ、少しだけ、彼を拒んでしまったのです。
気付いた時には遅く、王子の姿は消えてしまいその魂は魔女の手の中に収まっていきました。
娘は大層嘆き悲しみました。
あんなに愛していたのに、こんなに一緒にいたかったのに、ずっと共に生きようと思ったのに。
涙が涸れる様子がない娘を見て、魔女は告げました。
「この魂はいずれ生まれ変わる。いつかこの城に帰って来るかもしれない。それまで貴女は待てますか?待ちますか?」
娘は答えました。
「例えそれが久遠でも。あの人に会えるなら」
魔女は言いました。
「生まれ変わった彼はどんな姿をしているか分からない。異国の者かもしれない。男か女かもわからない。恐ろしい闇の住人かもしれない。貴女に生まれ変わった魂がわかる?」
娘の涙はいつのまにか止まっていました。
「わかるわ。今度こそ。絶対に」
娘の覚悟を感じた魔女は城と娘に魔法をかけました。
決して娘と城に害が及ばないように。そして時が止まるように。
「城の中庭に薔薇を植えましょう。決して咲かない薔薇を」
それでも、その薔薇が咲く日は決まっている。
いつか、いつの日か、本当に呪いが解けたその日に、二人の再会の祝福として花開くことでしょう。