あー…あれ何年前だったかな…5年か6年くらいだったと思います。
詳しく言うと身バレするんでバイト先の場所とかどういう所だったかは言えないんで、ちょっとふわっとした話になります。
ちょっと不思議なバイトのお兄さんがいたんですよね。
長身でめっちゃイケメンで。性格も良さそうで、なんかもう、特撮にいそうな感じで。
何でこんな所で雑用のバイトしてるんだろう?って不思議だった。
いやもういますぐオーディションとか受けに行った方がいいんじゃない!?って思っていた。
すっごく気が利く人でおじちゃんからもおばちゃんからも好かれていた。
重い荷物で困っている人がいればすぐ現れて荷物を持ってあげるし、無くなっているものがあったら発注済みで今日の昼には届くことになっていたり、料理も上手だったから他の人のお弁当の分まで作っていたりしていた。
これだけだとすごく普通の、普通じゃないな、マンガかゲームのイケメンみたいな見た目も良くて性格も良いイケメン!って感じなんだけど、周りの人達とは絶妙な距離感を保っていた。
休憩時間とかお弁当食べる時はいつもひとり。
中庭…ベンチがあるんだけどそこで食べていた。
まぁ悪い場所じゃないと思うんだけど、そこあんまり落ち着いて食べられないと思うんだよなぁ…
常に先客が…っていうか、そのベンチにいつもいる人…っていうか、像?みたいなのあるから。
それともその像のことめっちゃ好きだったんだろうか。まぁ自分も嫌いではなかったけど。
もう一つ不思議なことがあった。
そのイケメンのバイトの人はとある部屋の扉をじっと見つめることがある。
そこは従業員でも限られた人しか入れない部屋で、自分もちゃんと近付いた事がなかった。
でも一回だけ独り言?を呟いているのを聞いてしまった。
「もうすぐだね」
何のことだろう。
聞いてみたけど「ナイショ」と言われてしまった。言い忘れていたけどこの人は声もイケメンだった。
ある時、そのイケメンの人はバイトをやめて実家に帰ることになった。
元々2週間かそこらくらいの約束でのバイトだったそうな。
でも本当の実家は別にあって、その別の実家から今の実家に帰る途中?だったらしい。
今お世話になっている人とかここのえらい人とかに頼み込んでここで働かせて貰ったとかなんとか…
よくわからん。
「ヒカルちゃん~~~!元気でね~~~~~!」
「たまには遊びに来てね~~~~~~~~~!」
っていう感じでおばちゃん達は大号泣だった。
あ、ヒカルというのはそのイケメンの名前だ。今思い出した。名字は思い出せない。
ヒカルさんは最後に自分にも話しかけてくれた。
「これから忙しくなると思うから、頑張ってね」
忙しくなる…?そんなわけないと思った。だってここマジ暇なんだから。
…でも実際その通りに色々あってなってめっちゃ忙しくなったんだけど。
ヒカルさんはみなさんに挨拶を終えてから中庭のあの場所に行った。
丁寧に深々とお辞儀をしていた。
…やっぱり“その人”のめっちゃ大ファンだったとか?
最後の最後まで不思議な人だった。
正直今ではもう顔や声や外見をハッキリ思い出せない。
更に不思議なことに自分以外でそのイケメンバイトの「ヒカルさん」を覚えている人はいない。
あんなチヤホヤしていた従業員のひとたち、誰も覚えていない。
ひょっとしたら自分だけ見ていた幻覚?幽霊?あんなにイケメンでハッキリした幽霊いるか?
自分はいつまであのヒカルさんのこと覚えていられるだろうか。
そんなことをたまに思う。