峠駅 に別れを告げ、一度福島駅に戻る。
駅ビルの中にあるスーパー銭湯で汗を流し、休憩所の座敷に座り生中を2杯飲み干した。
休憩所のテレビでは、その年に開催されたロンドン・オリンピックで、陸上100m、200m、4×100mリレーで金メダルに輝いた「人類史上最速の男」ウサイン・ボルトの特集を放映していた。
前回の北京オリンピックで余裕とも取れる走りで圧勝した彼も、実は身体の骨格に歪みがあり、そのハンデを背負って走っているという事を初めて知り、王者の道も決して平坦なものではないのだと改めて知った。
汗が引いたところで、福島駅のホームに戻り、米沢行き下り普通列車の最終に乗り込む。
時は既に午後9時を過ぎている。
車内は混んではいないが、どのクロスシートにも必ず一人はいるくらいの、それなりの乗客の数はいた。
闇の中を列車は走り続け、先ほど赤岩から峠に向かった時に素通りした駅にて下車する。
板谷(いたや)駅

板谷峠の名前をそのまま拝借している駅だが、標高は峠駅のほうが高いらしい。
2面2線の相対式ホームは、スノーシェードの中に設置されていた。
ここで下車した乗客は私一人。
今日はこの駅で一夜を過ごす。
上りホームの端に小さなログハウス風の待合室があり、先程素通りした際に、さりげなくここで駅寝ができることを確認していたのである。
駅の探索は明日にしよう。
22時30分頃に通過する下り最終の新幹線をやり過ごした後、長いベンチに体を預けて眠りに入った。

駅は静かで、アルコールのお陰もあり、難なく熟睡に至ったようだ。
まだ薄暗がりの午前4時半頃に目が覚めてしまった。
駅寝をして早起きした時、その駅に踏切がついている場合に限り、私は必ずやることがある。
踏切の真ん中、2本の線路の真ん中に立って、果てしなく伸びる線路をしばらく眺めるのだ。
起きた時間や時期によって、その状態て朝日を迎えることができる。
前回の旅の坪尻ではそれはかなわなかったが、今回は幸運にもそれがかなえられた。
そうやって線路を眺めていると、あっという間に時間が過ぎる。
この線路はこの先、どんな地形や街の中を進んで行くのか?
この線路の上を、何台の車両が走り抜けていったのか?何人の人間が行き来したのだろうか?
日もかなり昇って来た。良い天気だ。今日も暑くなるだろう。
そろそろ駅の探索を始める。

私が一夜を過ごした待合室は、上りホームとくっついているため、上り列車に乗る場合は、待合室の中を通過する必要がある。
ホームの真ん中に22.4パーミルの勾配標が立てられていて、確かにホームに立つと傾斜を感じとることができる。

駅の出口に向かってみる。
赤岩や峠とは異なり、スノーシェードに覆われた引き込み線がまた残されており、線路の脇の通路を抜けて出口まで行くようだ。


300メートルほど歩いたところで出口に到達した。
出口まで来ると道路に沿って民家が建ち並んでいる。
この駅周辺はかなり生活感が感じ取られる。
そして、旧ホームと線路はしっかりと残されていて、遺構観察は十分行える。
ここには旧駅舎もわりかし良い状態で残されている。
スイッチバック時代の駅の賑わいが想像できる。


と、よく見ると旧ホーム側の車庫に電気機関車が停められていた。
あの機関車は今後出動する事があるのだろうか?

少し駅を離れて散策してみると、簡単に見晴らしの良い景色が広がってくる。
その景色を眺めることによって、今は山の頂上近くに居るんだということがよくわかる。


この板谷駅も、のどかでとても良い雰囲気を持っている。
駅に戻り、上り始発の新幹線「つばさ」をやり過ごしてから程なく、下りの普通列車が姿を現した。

板谷から乗り込んだのは私を含めて2人。板谷で降りる乗客はいなかった。
そして、今回の旅最後の目的地へ向かう。


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