13時45分
高崎駅から出発した信越本線下り列車は、定刻通り横川駅1番線ホームに到着した。
先週、この横川駅に訪れたとき
はスタンプを取っただけで、駅から一歩も出れずに高崎にトンボ返りしていた。
今日こそは、横川の駅、そして駅周辺をゆっくり楽しもうと思う。
ホームに降りると終着駅らしく、車止めが施されている。
しかしそれはやけに新しく、あとから慌てて取ってつけたように見える。
長く伸びているホームに、たった3両の車両が停車している姿も不自然に映る。
今まで訪れた終着駅の中で、一番終着駅「らしくない」雰囲気の駅に感じ取れた。
無理もない。15年ほど前まで、ここから碓氷峠を越え、軽井沢まで線路が伸びていたのである。
長野新幹線が開通したことにより、今まで重要な中継点であった駅が、その役割を終えて終着駅となってしまったのだ。
改札を抜け、小さな駅舎から外に出ると、真正面に「峠の釜めし」の販売元「おぎのや」の食堂が目に入ってくる。
そこから振り返って駅舎を臨む。
小さいが木造で味わいのある駅舎は、関東の駅百選にも選定されている。
さぞかし横川は衰退の一途を辿っているのかと思ったらそうでもない。
駅前はそれなりに観光客で賑わっている。
おぎのや食堂の向かいには、おぎのやの資料館があり、そこでは釜めし、そして横川駅の歴史を辿る事が出来る。
釜めしは、先週大変美味しく頂いた。
その余韻をしばらく感じていたいので、今日は釜めしは遠慮することにする。
そして横川駅から少し歩いたところに、鉄道テーマパーク「碓氷峠鉄道文化むら」が開園されている。
駅周辺の観光客の大半は、おぎのや、そしてこの鉄道文化むらが目的で訪れていると思われる。
私もこの鉄道文化むらは以前からずっと気になっていて、今回念願が叶ったかたちとなった。
早速入園料500円を支払い、入園してみた。
入園口付近は、子供用の遊具が多数設置されており、最初このテーマパークは子供・家族連れといった客層を狙っているのか?と思った。
しかしその奥、鉄道展示館に足を踏み入れてみると、そこはもう別世界だ。
まずは、横川~軽井沢間の路線(碓氷線/横軽線等と呼ばれていた)の絶対的な象徴、「峠のシェルパ」「ロクサン」ことEF63の出迎えを受ける。
さらに建物の奥には、アプト式EL「ED42」の姿を伺うこともできる。
「アプト式」とは、列車が急勾配を登る時、2本のレールの中央にラック式レールをひいて、車輪の間に歯車を着けた列車がそのラック式レールを歯車に引っ掻けながら進んでゆく方式である。
EF63が現れる前までは、アプトの技術で峠越えが毎日行われていたのである。
(大井川鐡道井川線の、「アプトいちしろ」~「長島ダム」間の区間では、現在もこの技術が使用されている)
野外展示場まで足を延ばすと、多数の車両が並べられている。
D51をはじめ、横川-軽井沢間を走っていた頃の特急「あさま」(今やその名は、長野新幹線に奪われた)、その他貴重な列車や電気機関車の姿を拝むことができる。
その中に、私が個人的に気に入っている気動車「キハ20」の姿もあった。
幼少時代から、この列車を見ながら育ってきたことを思い出す。
この姿、この色合い、大変懐かしい…
鉄道資料館に足を踏み入れると、1階には鉄道模型ジオラマが展示されている。
そして2階には、横川~軽井沢間の碓氷峠に線路を引く為の、様々な困難に立ち向かう過程を記した貴重な資料が、たくさん展示されていた。
66.7パーミルの勾配標を横に、力強く列車を牽引するEF63の姿をとらえた写真パネルも掲示されていた。
横川~軽井沢間の路線は、日本で初めてアプト式鉄道が導入され、また日本で初めて電化された区間なのである。
昔のこのような技術も、今や新幹線の技術により過去の遺物とみなされることであろう。
しかし、賢人たちの当時の技術、そして努力を後世に伝えてゆく為に、このテーマパークは存在するらしい。
パーク内では、横川~軽井沢間の残された線路(約2.6km)を使用して、トロッコ列車を走らせたり、
またEF63を実際に運転体験できるサービス等もある。
鉄道文化むらでの滞在時間は、わずか1時間余りであったが、十分堪能できる内容であった。
鉄道ファンでなくても、ぜひ家族で鉄道文化むらを訪れてほしい。
横川駅へ戻る途中の道で、地面の溝を埋める鉄板の代わりに、アプトのラックレールが使用されているのを見つけた。
16時22分
上り信越本線の列車は高崎駅に到着した。
私は高崎駅のスタンプ台の前に立った。
今回の旅で、一番お世話になったであろう高崎駅に、最大の敬意を込めて、駅スタンプラリー最後の、33個目のスタンプを頂く。
これにて、今回の旅の目的達成だ。
8月16日、水沼駅から始まったこの冒険も、今思えば長いようで短かった。
正直、もうこれで終わりかと思ったら、少々寂しい感じもする。
しかし上信電鉄でのトラブルも、駅寝したことも、とても良い思い出になるだろう。
この夜は、家で一人で祝杯をあげよう。
そして、次の旅の計画を練ろう。
パンフレットには、スタンプ5個を集めれば抽選でプレゼントが当たる、応募用紙が付いていた。
もちろん私は応募した。
苦労して集めたスタンプだが、当然の如く、プレゼントは当たらなかったことを、今回の旅のオチにしておこう。
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