小説②!!
正真正銘の超能力者、サダオは不遇な人生を送っていた。
このサダオ、念力だけで物を動かす事が出来るサイコキネシスの持ち主。
もちろんスプーン曲げなどお手のモノだ。
それ故に幼い頃は、人並みの努力をせずに何でも出来てしまったりしたので、真の大人としての性質を持ち合わせていない。社会人になってつくづく感じていたのだが、もう取り返しがつかない。
現在仕事に就いてはいるが、サダオの能力は何の役にも立たず人生の先が見えない状態だった。
そこで転職を考えたりもするのだが、特にこれといってずば抜けた能力も無い。
いや、あるのだが何の役にも立たない。
実は喰うには困らない「方法」はある。それはパチンコだ。玉を念力で動かせば勝つ確率はとんでもない数字となる。これなら簡単に金儲けが出来るのだが、サダオはそれはやめておいた。サダオが今欲しいのは、自分が生きているという「手ごたえ」だ。パチンコで生きていくなら歳を経てからでも出来る。
そしてその生き様は完全なる陰の人生だ。もっと陽の人生を送りたいのだ。存在を認めてもらいたいのだ。チヤホヤされたいのだ。
そこでサダオは考えた。
『そうだ、超能力者としてテレビなどに売り込んでみるか』
早速行動に移した。まず全国ネットテレビ局のブジテレビに電話をして売り込んだ。すると早速ブジテレビ局の人間は喰いついた。会う約束をし後日テレビ局へと足を運んだ。そしてテレビ局の人間の前で実際にその超能力を存分に見せ付けた。
怪しげな手の動き一つなく、物体が動くのだからテレビ局の人間達は度肝を抜かれた。
『おお、すごい。これは視聴率稼げるぞ』
サダオの超能力を見た誰しもがその様な感想を述べる。
『いつからその様な力を?力の発動はどの様にしているのですか?』
サダオが答える。
『いつの間にか、ある種のストレスを脳に与えてやると簡単に出来る様になっていました』
みんなもっと気持ち悪いと言うと思っていたが、何の事はない、もっと早くに人前で披露していればよかった。とサダオは思った。
そして早速「超能力者サダオ」の特番が組まれ、全国放送をする事となった。番組の中でサダオは生き生きとし、その能力を見せ付けた。どうだ、俺はすごいだろう?自信に満ちたその顔がそのテレビ放送の電波に乗ってお茶の間に届いた。
次の日、それはそれは大反響があり、もう素顔で街は歩けない程の人気ぶりだろうと踏んでいたサダオとブジテレビ。しかしソレとは異なる世間の反応。
『おいおい、ヤラセも程ほどにしろ』
『超能力て。馬鹿じゃないの』
『もう見飽きたんだよ、そういう嘘くさいのは』
『そんなものが動く訳ないだろ。ペテン師め』
なんてこった。ブラウン管を通すと、こうも反応が変わってしまうのか。やっぱりやめておけばよかったな。サダオはへこんだ。
次の日部屋でコモっていたら別のテレビ局、テレビ夕日の人間が電話してきた。
『やあサダオさん、散々な結果でしたね。どうもブジテレビの友人に聞いたところ、本物の超能力者だそうで。あ、申し遅れました。私テレビ夕日の山田と申します』
『あぁ・・・まあしかし最悪の結果と言ってよいでしょうな。何故なら俺は外を歩けなくなってしまった。どこのお店に行ってもインチキだの、ペテン師だのと呼ばれるに違いない。困った事になって部屋にコモっていたのです・・・で、何の用ですか』
『サダオさんどうですか?起死回生の一発を放ちませんか?私にお任せ下されば間違いなくみんなにキャーキャー言われる人物になれますよ。一度こちらへおいで下さい。詳細をお話しします』
どうせ家にいてもする事はない。パチンコやレストランに覆面をして行くのも怪しまれるし面倒だ。
そこで夜中、テレビ夕日へと足を運んだ。
そして話しを聞いたが、なんとも腑に落ちない話しだった。
しかし言われるがままに撮影を開始した。もうサダオの顔は世間にバレているので、付けひげにサングラス、輪郭も変わる様に口に綿を含んでバレない様にした。
そして名前もサダオは使えないので、アルファベットの反対読みでオアダスとテレビ用の改名もした。
そして放映の日、番組名を見てびっくりした。
『世紀のマジシャン、MR.オアダス氏!』
え!?俺は本当に超能力が使えるのに、なぜマジシャンに格下げされるのだ!?いや、マジシャンの格が低い訳ではないが、俺は「タネ」なしで物体を動かしているというのに。わざわざ「タネ」ありにしなくても・・・。
ところが視聴率は30%を超え、次の日のワイドショーや有名各誌で取り上げられた。世間の評判もこんな風だった。
『オアダスは実は本物の超能力者だ。すごい』
『タネなどあるはずがない、としか思えない。すごい』
『こんな超能力の様なマジックは初めて!すごい』
あっという間に有名人になってしまった。
サダオの家にテレビ夕日の山田が来た。
『どうですか。世の中本当の事を告げて頭をパニック状態にさせられると否定する傾向があるのです。それより考えれる余地を与えてあげる方が理解し、賞賛してくれるのです。普通なら1を2に見せて誇張するものなのですが、この業界は逆なのです。』
サダオはふと思う。
『ひょっとして・・・世界中でそんなマジシャンがたくさんいるとか…』
そういうサダオの横で、購入しておいた大量のスプーン達がゆっくりと曲がり、悲しげに揺れていた。
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