彼女が家に戻った時
最愛の人は姿を消していた
いろんな事情があるとはいえ
姉の看病のために
幼子を連れ
家を空けたことを
彼女は後悔した
自分が家を空けている間のことを
近所の方に聞き
涙した
一度、近所の方から電話をもらった
お姉さんが大切なのもわかるが
戻ってきてあげないと
ご主人が気の毒よ
と
今のようにコンビニもない
駅前の食堂で夕食を済ませ
一人の夜
今のように携帯もない
家には電話もなかった
近所のお宅に借りに行くのは
気がひけただろう
彼女の最愛の人の
最後の姿は
黄昏時
小さなかばんを下げ
うつむきながら
駅に向かう後ろ姿だった
と
彼女と幼子がいるお姉さんのところに向かったと
そう思うには
あまりにも寂しい後ろ姿だったと
それから
7年
彼女は後悔と悲しみと
溢れるほどの懺悔とともに
過ごすことになる
物心のつかない幼子とともに
その幼子に
自分の
後悔と悲しみと
懺悔を分け与えながら
彼女は私がお母さんと呼んだ人
本格的に介護が
始まった私に
ブロ友さんは
優しい言葉を
かけてくれた
人の優しさが
心にしみて
人の優しさが
私を
孤独から
救ってくれた
ありがとう
いつかの秋の黄昏時に
大切なものを
捨てる覚悟をした人は
今
私の目の前にいる
私がお父さんと呼んだ人
私が
この手で
着替えさせ
この手で
オムツをかえる人
なぜ
今それができるのか
大切なものを捨てる覚悟が
身を切るほどの
つらさとともに
ある事が
置いていかれるよりも
置いていく方が
呵責の念に苛まれる事を
大人になって
知ったから
お母さん
あなたが待った最愛の人
今度は
あなたが
置いていったね