以前住んでいたマンションは、近くに大きな病院が2つあり、
朝から晩まで救急車の音が鳴り響いていた。
ある日の夜、不意の金縛りにあい、慣れっこになっていた私は、
いつものように抵抗もしないでジッと解けるのを待っていた。
ところが、金縛りは解ける様子が無く、消毒液の様な
臭いまでしてきた。
そして足先に何かが触れた。
それは、足先から膝へと上に這い上がってくる。
はぁはぁという荒い息づかい。
あまりに異様な気配に、思わず目を開けた。
そこには足下から四つん這いで這い上がってくる
浴衣姿の50代ほどの男性がいた。
苦しそうに顔を歪め、はだけた浴衣の胸には、
大きな傷が丸見えになっていた。
取り殺されるという恐怖に、私は
「嫌だ!寄るな!死にたくない!」と叫んでいた。
途端に金縛りは解け、男の姿も消えていた。
死んだ人なのか、苦しさのあまり生き霊となって現れたのかは
わからないが、鼻をつく消毒液の臭いだけが、
消えずに残っているような気がした・・・