カーチュン入魂のショスタコ5番 | 木琴歩徒氏のブログ

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木琴歩徒氏の独り言ブログと、出かけたクラシック音楽のコンサートのレポートです。

○2023.12.9(土)14:00~ サントリーホール 2階P2-○
 カーチュン・ウォン:日本フィル(#756定期)、Mrb)池上 英樹
  外山 雄三:交響詩「まつら」
  伊福部 昭:オーケストラのマリンバのための
        「ラウダ・コンチェルタータ」
  (アンコール)ハーライン(池上 英樹編):星に願いを
  ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調op47
(会場入口のポスター)
 グラズノフなどのロシア音楽の秘曲を、桂冠指揮者ラザレフが振る筈
だった日フィル定期。プーチンによるウクライナ侵攻の影響で、4回連
続で来日は見送りとなりプログラムは全面変更。新首席のカーチュンに
より外山雄三、伊福部昭、それにショスタコ5番が演奏された。邦人の
作品が2曲とは、いかにもカーチュンらしい選曲。ステージにはピアノ、
ハープ、マリンバなどと共に、打楽器群が所狭しと居並ぶ。オケはフル
編成でコンマスは田野倉雅秋。2階後方以外は8割方の入りと盛況であ
る。Pブロック下手最前列の、いつもの年間定期会員席で聴く。
 最初は7月に92歳で亡くなった外山雄三の曲。佐賀県北部松浦(古称
まつら)地方の古謡を素材とした交響詩で、市民2千人が募金で協力し
て完成。1982年に日フィルが唐津で初演した、所縁の曲とのことである。
前半は哀愁を帯びたゆったりした曲想で、悠久の時の流れを感じさせる。
後半はテンポを次第に上げ、唐津くんちの祭囃子が白熱化。一瞬停止し
た後、賑やかなフィナーレに突入した。先月聴いた小山清茂でも感じた
が、カーチュンが紡ぎ出す日本民謡は極めて自然で、外国人が指揮して
いることを全く意識させない。自分の音楽に成り切っているのだろう。
(カーテンコール)
 2曲目は1979年に初演された、伊福部昭のマリンバ協奏曲。マエスト
ロとコンマスの間に、長さ3m程あるマリンバが運び込まれるが、少々
間延びした風景になるのは否めない。単一楽章で演奏時間は20数分。タ
イトルはイタリア語で、協奏曲風の讃歌を意味するのだそうだ。ダッダ
ッダッダッという原始的なリズムが執拗に反復され、それに乗ったマリ
ンバの響きが美しい。伊福部の特徴であるこのリズムから、ゴジラの驀
進しか想像できないのは、私の感性の貧弱さの故であろう。ゆったりと
した中間部は北国の広大な大地を想起させ、後半の土俗的な舞曲の迫力
は「春の祭典」顔負けの高揚感である。ソリストはジャズ・ロックなど、
様々なジャンルで活躍する世界的な打楽器奏者。黒づくめの服装で長髪
を後ろで束ね、2本ずつ握ったマレットから深みのある音色を響かせる。
なおこの曲のみオケは弦14型+Cb1。タクトは使わなかった。ソリスト
のアンコールは、癒し系の静かな曲。聴き覚えのある旋律が断片的に顔
を出すが、ディズニーの曲とは直ぐには気がつかなかった。
(会場のロビー)
 15分の休憩の後は2年振りに聴くショスタコの5番。この時もコロナ
禍でラザレフが来日できず、沼尻竜典が急遽代役のコンサートだった。
無機質な中に人間的な暖か味を感じさせる曲だが、この曲以外はこの作
曲家を進んで聴くことは殆どない。マエストロは暗譜でしばしば手を突
き上げ、いつものキビキビとした鋭角的な棒捌きである。
 1楽章は速めのテンポで緊張感に溢れる。魂の叫びのような弦のアン
サンブルが印象的。2台のハープやコンマスのソロが、効果的な隠し味
となっている。2楽章は諧謔的で快活。カチッと揃った弦のピツィカー
トが小気味よい。弦と木管を存分に歌わせた3楽章は息詰まる緊張感。
無調的だが透明な響きに心を掻きむしられる。休まず突入した4楽章は、
速めだが堂々たるテンポ。出だしの馴染みある旋律が、場内の興奮を掻
き立てる。金管が咆哮し打楽器が鳴り響く壮絶さ。眼下2mに位置する
木琴と小太鼓の、鋭い響きに圧倒される。歯切れのよい入魂の演奏には、
聴く方まで体が熱くなってしまう。フィナーレは圧倒的な迫力で、嵐の
ような大拍手に。真っ先に立たせたのはホルン。マエストロは一同礼で
楽員が退出した後も、コンマスを連れ出しコールに応えていた。