ミイ子「子供の頃、私、ずっと眼鏡が欲しかったんだよね。」
マリカ「視力悪かったの?」
ミイ子「ううん、めっちゃ良かった。むしろ動体視力テストで全問正解してた。」
マリカ「じゃあなんで眼鏡?」
ミイ子「だって、あのフレームの内側に知性が宿ってる気がしたんだよ。眼鏡かけた瞬間、将来は博士みたいな。」
マリカ「博士っていっても、虫眼鏡でアリ見てる博士でしょ?」
ミイ子「いや、なんなら世界救う博士まで妄想してた。」
マリカ「眼鏡ひとつでノーベル平和賞、強いわね。」
ミイ子「でもね、あともうひとつ欲しかったものがあって…」
マリカ「なに? 博士号?」
ミイ子「いや、アレルギー。」
マリカ「え、アレルギー? ちょっと待って、どういう方向性の願望?」
ミイ子「いやね、子供のころ友達の誕生会に行ったら、乳製品アレルギーの子だけ、特別なカップケーキが出てきてたの。ピンク色の植物性クリームが乗っかった奇麗なやつ。」
マリカ「あー、米粉とか豆乳でできてるやつね。」
ミイ子「そう! それがもう、キラキラして見えたのよ! 選ばれし者のスイーツって感じで!」
マリカ「いや、選ばれたくない方向の“選ばれし者よそれ。」
ミイ子「でも私は普通のショートケーキ食べながら、『特別感がない…』って思ってた。」
マリカ「なるほどね、子供のころから限定版に弱いタイプだ。」
ミイ子「そう、限定スイーツアレルギー希望者。」
マリカ「そんなジャンル存在しないわよ。」
ミイ子「でも今思えば、あの頃の私は、特別扱いに憧れてたんだろうね。」
マリカ「私は逆に、喘息て特別扱いされてたわよ。保健室行きの。」
ミイ子「うわ、リアル特別扱い…!」
マリカ「たぶんミイ子が見たら、『うらやましい!』って言ってたんでしょうね。」
ミイ子「いや…当時の私なら、たぶん“保健室限定プリン”とか期待してたと思う。」
マリカ「出ないわよそんなの!」
ミイ子「結論、子供って、アレルギーの本当の意味をまだ知らない。」
マリカ「そして年齢を重ねて気づく、健康がいちばん貴重なアイテムってことに。」
ミイ子「なんでも食べられて、好き嫌いもほとんどない私が、実はプレミアム会員限定特典持ってたとはね。もっと早く気づきたかったな。」
マリカ「これからは、そのありがたみを噛みしめて生きていきなさい。」

