ミイ子「ねえマリカ、もし何でも飼えるとしたら、私、プレーリードッグがいいなって思ってるの。」
マリカ「またずいぶんと毛深い選択をしたわね。あれって草原の弥勒菩薩みたいな顔してるわよね。」
ミイ子「そうそう!あの慈悲深い小顔がいいんだよ。私の部屋の真ん中に厳かに座ってたら、きっと人生が二割増しくらい楽しくなる。」
マリカ「でも、部屋に菩薩を迎えるってことは、あなたも修行しなくちゃよ。」
ミイ子「いいじゃん、修行!一日中一緒に野菜を食べて、夜は一緒にぼんやりするの。」
マリカ「何その修行?ベジタリアンの食費、なめない方がいいわよ。ボケッとしてるうちに、あなたの人生が二割減する未来が見えるわ。」
ミイ子「いや、プレーリードッグと過ごす穏やかな週末って、それだけで価値があると思う。きっと、心拍数がちょっと落ち着く感じになるんだ。」
マリカ「あなたの人生、最終的に草原化しそうね。」
ミイ子「じゃあマリカは?何飼いたい?」
マリカ「トビハゼよ。あの半分魚で半分陸上の迷える存在。見ているだけで哲学が生まれる。」
ミイ子「哲学?魚で?」
マリカ「だってあの子たち、潮の満ち引きのわずかな時間に地上に出て、目をぱちぱちさせながら泥の上を跳ねるのよ。あれは、いつもぎりぎりのとこを生きてる姿そのものだわ。」
ミイ子「なんか哲学っぽいこと言ってるけど、要するに、あの子ら、ぴょんぴょん跳ねてるだけだよね。」
マリカ「跳ねるっていうのは、生きるためのひとつの手段よ。あなたのプレーリードッグが草をむしゃむしゃするように、トビハゼは泥の上で跳ねる。みんなそれぞれのやり方で世界を生きてる。」
ミイ子「急に世界規模の話になった。」
マリカ「でも現実的には、飼育環境がすごく面倒くさいのよね。温度、湿度、泥の管理。あれ、私の人生の八割くらいトビハゼの泥になる可能性がある。」
ミイ子「私は草原、マリカは泥沼。足りないとこを補い合える、なかなかいいコンビじゃん。」
マリカ「まったく。あなたと私、プレーリードッグとトビハゼ、最終的に地球のバイオームを二人と二匹で背負う気なのかしら。」
ミイ子「それ、どう考えても世界が平和になる未来しか見えない!」
マリカ「ちょっといいでしょ?菩薩と哲学者と、私たち。」
ミイ子「いい!少なくとも、退屈だけはしなさそう。」


