関東から地元へ戻り、買って来たお土産を仕分けしていると夫の両親へ買ったお土産の賞味期限が短い事に気付く。


コロナ感染を懸念して、わずかな時間だけお邪魔することにした。

義両親とは実に3年ぶりの再会となる。

東京と沖縄土産を渡して軽く会話が始まった。



途中『お母さんの件、突然で大変だったね…』と義理の母が話し始め、私からも説明をしたが言葉が詰まり出し話すのを止めた。


私の心情を察知したのかしないのか、テレビと冷蔵庫を40万で買い替えたと嬉しそうに語り始めていた。

それはそれは。宜しい事で……。


あまり長居するのも…と伝えて、また来るよ。と自宅へと車を走らせた。


突然、思い出しスマホの留守番メッセージを見る。


2018年9月6日から私のスマホには母からの留守番メッセージがいくつも残されている


どれも一度は聞いた事のあるメッセージばかりだ。

今となっては遺品の一部のようになってしまった。


携帯の解約手続きの時にメッセージが残されていると気が付いたのだが、怖くてずっと聞けずにいた。


声が聞きたくなり、2020年10月15日のメッセージを押してみた…




スマホの向こうから懐かしい声が聞こえる




消えないように保存しようと思った。



母さんが生きていた頃はいつか死んでも葬儀の時に泣く程度だと私は思っていたよ。

いつか人は死ぬんだからって

70歳過ぎてるんだから、ある意味十分かもってさ…

もしかしたら、死んだらせいせいするかもしれないとさえ思っていたよ。



でもさ、自分が思っていた感情と全然違うんだ。



突然この世から消えたからそう思うのか。

それとも母さんが腐敗していたからなのだろうか。

答えは両方だよね。




そんなに毎日泣く位なら母さんが生きてる時にもっと大事にしてくれたら良かったのに。って空の向こうで今頃思っているかな。




母さんは飲んでいた薬の副作用もあってか学校から帰るといつもカーテンを引いて暗い部屋で夕方まで寝ていたよね。

母さんがスリップ姿で肌けて寝てる姿が私は嫌だったんだ。


夜中に泣いたり一人で笑ったり。


幼い頃、金曜日になると厚化粧してワンピに着替えて香水振りかけて、男の家に泊まりに行く姿を見送りながら、いつか私達を捨ててもう帰って来ないんじゃないかといつも恐怖に感じていた。



父さんの浮気が原因で私が3歳半の時に離婚してから、ずっと貧しくて食べ物が無い時や食器棚の奥に一つだけあったインスタントラーメンを3人で分けて食べた事もあったよね。


別れた父さんがある日突然現れて、私一人を連れ去り49日間連れ回され、警察が動いた事もあったね。

あの時の記憶は今もまだ残っているんだ。


夜になると借金取りがドアをドンドン叩いて、怖くて息をひそめていた時もアパートの住人に夜遅くにお金を借りに行かされたり、大した理由でも無くアパートの鉄筋に姉ちゃんと2人で立ったまま縛りつけられ夜中まで放置された事もあった。


母さんの中絶手術の時も麻酔が効き始めて急に錯乱状態になったまま手術室へ消えていった日も憶えている。


中学生の頃は母さんに反論すると『育ててやってんのに!!辛口ばかり言いやがって!!』と言いながら足蹴りされて、私は身体に出来たアザを見ながら死にたいと何度も思った。


高校の時は卒業したら家を出ようとバイトして貯めた数万円を隠していたら、勝手に生活費に使たり。


家に金を入れるのは当たり前だ!と言いながら。


大人になっても金に困れば最終的に私の所に借りに来るのも本当に嫌で嫌で仕方なかった。


でも心のどこかで母さんを可哀想だと思っていたから文句を言いながら金を渡していたんだよ。


離婚したのは父さんのせい。

あれから歯車が狂い始めたのは知ってる。

全て母さんが悪いわけじゃ無い。

病気を患ったのも別に母さんのせいじゃないんだ。

母さんが望んだ人生では無いのも気付いていたよ。


だからかな。

母さんを憎いのに憎みきれずに、嫌いなはずなのに嫌いになれずにいたのは…



色んな想いが交錯して自分でも良く分からないよ。




9日・時刻は深夜3時34分


寝ようと目を閉じていると、私の寝室前で誰かの足音が数回聞こえた。

二の足を踏んでいるようなカンカンカン…と言うような音。

夫か息子かな?と思い様子を伺っていたけど、部屋から出てくる気配は全く感じなかった。


もしかして母さん?と思い、更に暫く様子を伺っていると急に『ごめんねー』って言葉が脳内に浮かんだ。




『もう逝く時が来たの?49日っていつなの?何で死んだの?』心の中で私は聞きたかった事を色々と聞いて子供の近況報告をしてみた。


母さん居るなら返事してよ。そう念じてみたが、はっきりとした答えは返って来なかった。


10分程経ち、またかすかに足音が聞こえた。


急に脳内に浮かんだ言葉は『またね』だった。


この時の時刻は4時44分



朝になり、家族に夜中に起きたか確認してみた。


2人からは起きてない。と返事が返ってきた。