結局、煙の塔が何であるかは明かされることはありませんでした。
ただ、それは「定められた何か」であり、「その意味を忘れられた何か」でした。

お話はこの煙の塔が音を発し、それに病弱な妹とその兄が気づくところからはじまります。
舞台は小さな山間の村。
その山の中に、ずっと閉じられた塀に囲まれた煙を吐く塔がありました。

その小さな村では、村長の姪の結婚式が近付いていたのですが、ある日塔から音がし始めたことから、平静が崩れてゆきます。
その塔は長い間、極秘に村長一族の一人が住み込み、燃料を絶やさないようにしていたのでしたが、ところが今住んでいる(実は村長の母親)の命に限りが近付いてきたことから、結婚する姪が交代で塔へ行かねばなれらなくなり・・・と話が展開します。

一方、町から行政官が現れ、村長に不満を抱いていたものが行政官に取り入り、保たれていた秩序を崩そうとする。
さらに、姪が結婚することで、姪に思いを寄せていた男、そして姪の結婚相手に思いを寄せていた女。
村にいる限り治らない病にかかっている妹を持つ兄、その兄と・・・・

多様な人間関係が狭い村で同時進行で展開します。
その様を、一つの舞台の上で同時多発的に繰り広げられてゆくます。
同時間で起こることは同時間で進行する。
最初、戸惑ってしまうその展開はお芝居が進むにつれ、だんだんと慣れてきました。

そして、舞台上でクロスするそれぞれのシーンは「見えていて欲しいものが見えていない空間にあったり」、「聞かれてはいけない話が聞かれたり」という表現が実にシンプルでかつ多彩でした。

さらに、秀逸なのは舞台上で展開される芝居の全てにセリフがあるわけではないこと。
つまりは説明しすぎない、観る側の感じ方にある程度委ねているところにあります。
その、説明の足りなさ加減が実にちょうど良く、そこがこの作品の素晴らしさにつながっております。

「定められていたもの」を守ろうとするもの、運命を受け入れようととするもの、購おうとするもの、定められていたものを壊そうとするもの、出てゆくもの・・・

最後、姪は自分の運命を受け入れます。
婚約相手が死んでしまったということもあります。
そして、引き継ぐ相手である女は、自分が彼女の祖母であることを明かさず去ります。

実に静かなお芝居でしたが、展開から目を離すことができず飽くことなく観ることができました。
ほんと「すごい」作品です。

ただ、「え、どうなっちゃうの?」というその後が気になる部分が全て残されたまま終わるので、正直続きがあるのではないかと期待してしまいます。

これは楽屋で村長役の藤本さんとお話していたのですが、
・病気の妹を連れていった兄は町に帰ってくるのか。
・その兄に思いを寄せていた女はどうなったのか。
・行政官に軟禁された村長はどうなったのか。
・そして煙の塔が何であるかは明かされるのか。
と、気になることは枚挙に暇がありません。
藤本さんとパート2のお話を(冗談で)しておりましたが、できれば田辺さんに書いてほしいなと思います。

さて、役者さん。
飯坂さんは新たな世界を見出したように思います。
抑えた演技が実によかった。
皆、素晴らしい役者さん達ばかりの中での作品作りは彼女にとってかなり勉強になったのではないでしょうか。
そして、合田君。
彼の飄々とした演技は実にいいですね。
彼にとっても今後の努力クラブの活動に良い影響がでるのではないかと思います。
後は高杉さん、相変わらずエロくて素敵ですし、藤本さんはさすがに上手いですね。
他の皆さんもすばらしかったのですが、書ききれません。

今度は「建築家M」を今度は田辺さんご自身の演出でされるそうです。
こちらも見逃せない作品になりそうです。

いやー、実におもしろかった!

mokichi4516こと齋藤秀雄の再び京都へ戻ってきました。-劇研の看板