何度かこのブログに登場しておりますが、斎藤星次というのは私の父親でございます。
40年間教師一筋で勤め上げ、今は福井県鯖江市で隠居しておりますが、その生涯二作だけ童話を世の中に発表しております。
ひとつは「まぬけなリュウの話」(ポプラ社刊)。
こちらのブログ でご紹介したこともありますが、人形劇団のかわせみ座さんが長くその作品を上演していただいていますので、僅かですが世の中に知って頂いております。

実はもう一作、その「まぬけなリュウの話」の話より5年前、昭和46年に発表した「ケラとヨトウムシ」という作品があります。
この作品は、当時、洛英社という出版社から発刊された中部日本児童文学選集3「モクモク町のある一年」に収められている、父35歳の時の作品。

舞台は日当たりのよい丘の上の小さなじゃがいも畑。
その畑には、キリギリスや蝶、アリマキなどたくさんの昆虫が住んでいました。
その中で他の虫たちからこばかにされていたのは美しく鳴けないケラでした。
そのケラでさえ、蔑んでいたのが農作物の根を切る「根切り虫」とも呼ばれるヨトウムシでした。
そのヨトウムシは、害虫ゆえお百姓が畑を消毒して退治されてしまい、やっと気の弱い一匹だけが生き延びていました。

あるじゃがいもが真っ白な花を咲かせた日、畑の虫たちは浮かれてお祭り気分。でも、すぐに宴に飽きてしまい「何か面白いことはないか」と騒ぎ始めます。
そんな中ケラは他の昆虫に気に入ってもらうため、ヨトウムシに、じゃがいもの花を切らせて見物しようと言い出します。
虫たちはいつも蔑んでいるケラが面白いことを言い出したので、乗り気になりました。

ケラはヨトウムシを騙してじゃがいもの葉の上に連れてきて、花を切らせようとします。
ところが、ヨトウムシはかつて自分が生まれてはじめてダイコンの小さな根を切ったときダイコンの苦しむ声を聞いてしまったため、二度と植物の根を切れなくなっていたのです。

ケラがどんなに脅してもヨトウムシは花を切ろうとしません。
ついに悲しくなったヨトウムシは泣きながらお月様に「僕をたすけてください」と祈り始めます。
ケラはヨトウムシが泣き出したのを見て、自分も悲しくなり泣き出してしまいます。
キリギリス達や他の虫たちはいっこうに花切りが始まらないばかりかケラまで泣き出したので、つまらなくなり家へ帰ってしまいます。
月夜にケラとヨトウムシはじゃがいもの茎の側にいつまでも佇んでいました。

というお話です。
斎藤星次作品の特徴はハッピーエンドではないこと。
ただ、ハッピーエンドではないし、弱きものが強きを挫いたりもしない代わりに、弱きものは弱いまま心優しく強いことを描いています。
「まぬけなリュウの話」でも、弱い者(村人たち)は強きもの(侍)に取り入るため、心優しきもの(リュウ)から爪を奪い、あげく蔑みます。
でも、その最も弱きものは実はどこまでも心優しく、自分を失わず、心を変えずに生き続けます。

これこそ発表から40年の時を超え、できれば多くの人に知って頂きたいと思う父の作品のエッセンスです。
かわせみ座さんは「あまりに悲しすぎるから」と「まぬけなリュウの話」のラストを少し変えていますが、本当は変えないほうが作品の真意は伝わりやすいと私は思います。

息子である自分の身内の身びいきである部分は、多分にあるかと思いますが、ちょっとだけ知ってほしいなと思い、長々と書かせていただきました。
機会あれば、どこかで紹介させてもらいたいなと思います。

mokichi4516こと齋藤秀雄の再び京都へ戻ってきました。-斎藤星次作品