なんて表現したらいいのだろうか。心がしびれる。そんなお芝居でした。

くじら企画「山の声」。
くじら企画は一昨年の亡くなった大竹野正典さんのプロデュース劇団。
今回の企画は追悼企画の最終夜。
「山の声」は大竹野さんの遺作になります。

登場人物は大正・明治期の孤高の登山家加藤文太郎とその後輩吉田。
新田次郎氏の「孤高の人」をモチーフに書かれています。
舞台は加藤と吉田の最期となった槍ヶ岳の山小屋での話。

物語は、「単独行」で有名だった加藤の人と成りを描きながら進んでゆく。
不器用でおかしみがあり、普通のサラリーマンでありながら山にとりつかれた加藤がなぜ「単独行」を続けていたのか。
そしてその加藤を追いかけていた後輩吉田の人生。
「単独行」を主義としていた加藤がなぜ吉田とパーティを組んだかと進んでゆく。
それはどことなく悲しく進むのだが、そこに前年結婚し子供をもうけた加藤の新しい希望の話が加わることで、観る者すべてが知っているこの物語の終焉をさらに深く悲しくしてゆく。

サブザックにわずかな食糧だけもった状態で4日間山小屋に閉じ込めれたふたり。
突然、晴れ間が現れる。もちろん下山するチャンス。
それは山特有のわずかな時間の晴れ間。
ところがその晴れ渡った空に槍ヶ岳を見たふたりは思わず叫んでしまう。

「山が呼んでいるー!」

それは死へ向かうの悲しい叫び。それは山に魅せられたものの心の叫び。
『ああ、ふたりが死んでしまう・・・』

静かに進むこの芝居の中で完全のふたりに引き寄せられていた私はここから涙が止まりませんでした。
1時間35分の二人芝居。舞台はいたってシンプルな中、最期のシーンで二人の役者を包む紙吹雪はまるで観客も猛吹雪の中にいるようなそんな気分にさせられました。

最近いろいろと新しい手法を尽くしたお芝居がたくさんありますし、そういったお芝居もとても面白いのですが、今回のようなオーソドックスなお芝居で感動すると、役者の力と本の力強さを再認識します。

「心を打つ」芝居
まさにその言葉がぴったりのお芝居でした。

大竹野さんが「犬の事務所」で公演活動を始めたのが1989年。
たまに京都帰ってきて無限洞を訪ねると「犬の事務所いいよー」と薦められていたのに、実は一度も観たことがありませんでした。
その大竹野さんが亡くなり、もう彼のお芝居を観ることはできません。

これも私が15年もの間芝居を離れていたことの罰なんだろうなと思いながら家路につきました。
そして、またキタモトさんにも石川君にも挨拶ができませんでした。
これも罰なのでしょう。